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マスターレコーダーでスタジオ品質のマスター音源を作ろう

DTMで制作した音源をリリースしようとしている方なら、DAWでトラックをバウンスする際に音質が変化/劣化してしまい困った経験があるのではないだろうか?

DAWのバウンス処理は問題が多い。MIDIトラックをオーディオトラックにしたり複数のオーディオトラックを2mixにバウンスしたりする場合、DAW内ではデジタル的な演算処理が発生し、その演算が完璧でないため音に悪影響を及ぼしてしまう。そのため、オーディオトラックにレコーディングしてしまうことで演算を回避するのが一つの解となることはこちらで紹介したとおりだが、もっと良い方法がある。マスターレコーダーの導入だ。

そもそもDTM市場で一般的に入手できるマスターレコーダーはほとんどないのが実情だが、TASCAM DA-3000はその筆頭格といっていいだろう。

機能/用途

DA-3000には複数の使用用途があり、マスターレコーダーとしての使用はもちろん、DAコンバーターやマスタークロックとしても使用することもできる。

マスターレコーダー

最も主要な使用用途で、フォーマットはリニアPCMとDSDに対応している。使い方もシンプルで、DAWの音をDA-3000に送り、レコーディングするだけ。接続もXLRケーブル2本でアナログ入力するだけなので難しいことはなにもない。

DAWから送るのはステレオアウト(2mix)か、入出力数の多いオーディオI/Oを使用している場合はステム単位でアウトするのも良いだろう。ただしオーディオI/Oが2OUTのモデルの場合は、DA-3000に信号を送るとモニターに送れなくなってしまうので多チャンネルのオーディオI/Oが望ましいといえる。

オーディオケーブルについて
ケーブル専門店の方から聞くところによれば、オーディオケーブルはBELDEN 88770(XLRの場合)や88760(TRSフォン、RCAの場合)あたりがオススメとのこと。ケーブルの端子のメッキは受ける方と「逆に」にすると音がフラットになってよいらしい。つまり、金メッキの出力を受けるならケーブル側は銀メッキで受ける、あるいはその逆である。金X金だと音の解像度が下がり、銀X銀だと音が固くなるという。またXLRはRCAよりも音が大きいので、XLRで受けた音をRCAで出力すると音が小さくなってよろしくない。なので、XLRで受けたものはXLRで出力しよう。(RCAで受けてXLRで出力するならおそらく大丈夫。)

PCMとDSDのどちらでレコーディングするかは悩むかもしれないが、主な違いは以下の通りだ。DSDは特に生音の質感やリバーブなどのFXのかかり方に定評があるので、両方試してみて好みのフォーマットを選ぶと良い。

[メモ] PCMとDSDの違い

PCMとDSDの違いは気になる方も多いと思うので、こちらの内容を加筆修正する形で簡単に記載しておこう。

PCMは、波形を一定時間ごとに数値化する方式。たとえばCD音源では、44100分の1秒ごとにサンプリングをおこない、音の大きさ16bit(0~216)で量子化する。24bit/96kHzなどのハイレゾ音源もPCM方式であり、サンプリング周波数や量子化ビット数を高くしてより細かくデータを取ることで、もとの波形に近づけている。

対して、DSDは1bitで量子化をおこなう方式(PDMの一種)。2.8224MHzのDSD音源は、CD音源の64倍という高サンプリングでデジタルデータ化されている。 音の大きさはパルスの密度で表し、変化量が大きいほど密度が高くなる。DSD方式ではデータの間引きや補間がないため、よりアナログに近い音質を再現できるといわれている。最近はDSDのフォーマットであるDSF/DSDIFFファイルで提供される音源も増えており、特に原音にこだわるクラシックやジャズの分野で大きな注目をあびている。

DSDは正確には「PDM」というパルス変調の一種。PCMとの比較は以下の記事にも詳しいので、興味のある方は一読してみるといいだろう。

なお、TuneCoreなどのデジタル配信ではDSDは非対応なので注意が必要。どうしてもDSDの質感が欲しいという場合は、DA-3000にDSDでアナログレコーディングし、それをDAW側にレコーディングし直せばOKだ。

DAコンバーター

またDAコンバーターとして使用して、DTM制作のモニタリングをオーディオI/O経由ではなくDA-3000経由でおこなうことができる。

PCにある音源はすべてデジタル形式であるため、モニタースピーカーからオーディオとして出力する場合にその都度デジタル・アナログ変換(DAC)をおこなっている。その変換は通常オーディオI/Oでまかなっているわけだが、DA-3000でおこなうことでより高品質な音でモニターすることができるというわけだ。そのあたりの事情はこちらの記事に詳しいのでご一読あれ。

マスタークロック

DA-3000をクロックマスターにして、オーディオI/Oなどのクロックを同期させることで、さらに音質の向上が期待できる。ただしRME製品など一部のオーディオI/OはSteady Clock(RME独自のデジタルジッター抑制機能)を採用しており外部クロックを受け付けないので、RMEユーザーの方などはこの機能は特に気にしなくてよいだろう。

DAWとの接続方法

マスターレコーダーとして使用する場合

DA-3000のアナログ入出力が「XLRバランス」と「RCAアンバランス」に対応しているため、DAW側から「XLRバランス」で出力してDA-3000に入力すればよい。

DAコンバーターとして使用する場合

入力はデジタルで行い、フォーマットはPCMとなる。DSDはデジタル入出力に対応しておらず、pyramixなど特殊なソフトを使用しない限りPCでは通常再生できない(ただし、SDIF-3のみデジタル伝送可能)。

デジタルケーブルについてのTIPS
デジタル入出力の場合、理論的にはアナログ入出力のようにケーブルの良し悪しによって音が顕著に変わることはないようなので、そこまでこだわらなくて大丈夫そう。

マスタークロックとして使用する場合

ワード・クロックからクロックを出力。端子はBNC。

なお、DA-3000の入出力についてはDAW LESSON様のブログに簡潔にまとめられていたので、以下を参照されたい。

・アナログ入出力:XLRバランス、RCAアンバランス
・デジタル入出力:S/PDIF(コアキシャル)、AES/EBU、SDIF-3
・ワード・クロック:1系統

https://dawlesson.net/review/2014_da3000/

入出力レベルのチェック

オーディオI/OからDA-3000に出力する際は、オーディオI/Oの出力はフェーダー位置「0」で固定しておこう。基本的にオーディオ機器の入出力は「0」(0 dBFS)が基準になっており、デジタルで音量を下げると情報量が少なくなる「ビット落ち」という音質劣化現象が発生するためだ(以下を参照)。

基準レベルと最大入出力レベルに注意

なお、ラインレベルで入出力する際は基準レベル(リファレンスレベル)と最大出力レベルに注意しよう。基準レベルと最大出力レベルのレベル差は、アナログ入出力の「ヘッドルーム」と呼ばれ、機器ごとに異なるのでチェックしておく必要がある。機器同士でのレベルが一致していないと、音声信号をやり取りするときに音が歪むなど問題が発生するからだ。

DA-3000ではMenu>Generalにある「REF. Level」が基準レベルとなっており、デフォルトは「-16dB」(基準レベル+4dBu、最大レベル+20dBu)。レベルについて詳しくは以下のサイトなどをご覧いただくのがよいだろう。

まとめ

いかがだっただろうか?DAWのみで完パケするとどうしても音が平面的でパキッとしすぎてしまうが、マスターレコーダーを使用することで音に立体感やふくよかさを付与することができるので、高い品質を求める方ほど試す価値はあるだろう。

ちなみに今回紹介したDA-3000は、コロナによって部品供給の維持が困難になったため生産が完了したらしい。現時点ではまだ新品が流通しているので気になる方はぜひ早めのチェックをおすすめする。

なお、DAWでマスター音源の品質を高める方法は、今回紹介したマスターレコーダーによる品質向上のほか、サミングミキサーを使用した質感の向上がある。海外ではマスターレコーダーよりもサミングが多数派で、トラックやステムをマルチアウトしてアナログコンソールに出力し、サミングミキサーでミックスをおこなって音質向上を図り、2mixをDAWに戻したりすることが多いそうだ。ただサミングミキサーと呼ばれるミキサーは通常目にするPA用のミキサーとは異なり個人が気軽に手を出せるレベルではないので、少なくとも日本の一般的なDTMerにとってはあまり現実的とは言えないだろう。

以上、この記事がお役に立てれば幸いだ。ちなみに本記事は上にも記載したDAW LESSON様のブログを主に参照させていただいた。更に細かい点をチェックしたい方はぜひこちらもご覧あれ。

ちなみに本編とは直接関係ないが、オーディオケーブルはBELDEN 88760の評判がすこぶる良い。どれを使えばよいかお悩みの方は、ぜひ試してみてると良いだろう。筆者も近日中に導入予定だ。

では、良いDTMライフを!

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