別れの瞬間(とき)
「もう、行かなきゃならないんだ。」
彼女から伝わってくる気配が変わった。予想はしていたけれど・・・。
「ごめんね。」
もう、謝るしかなかった。
「いや。一緒にいる。」
きっぱりと言い切る彼女。
怒りにも似た強い意志を秘めた目の彼女を、僕は初めて見た。
(困ったな・・・)僕の手をしっかり握ったまま離してくれない。
先ほど再会し、僕を見つけるなり満面の笑みで僕に飛び込んできてくれたばかりなのだ。彼女の気持ちはわからなくはないつもりだ。
(僕だって、一緒にいれるものなら一緒にいたいよ。だけど・・・)
「・・・ごめん・・・やっぱり、行かなきゃならないんだ。」
時間が迫っている。僕はもう一度、彼女にそう伝えた。
ふいに、彼女が泣き崩れた。
広い玄関ホールに響き渡る叫びにも似た慟哭だった。
僕は彼女をぎゅっと抱きしめた。
違うよ、君を拒絶したわけじゃないんだよ。
せめてそう伝えるために。
そして、僕は彼女を抱き上げ、
談話室で話し込んでいる男女4人の所へ彼女を連れていった。
「あの、お母さんすみません。僕、行かなきゃならないので・・・」
彼女の母親は彼女をひざに乗せると、泣くままにさせていた。
談話室に響き渡る泣き声を聞きながら、僕は教会を後にした。
11/30(日)13:40
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