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正月の間も家族の口数は少なかった。気を回して会話するK美とY美は二人ともN美の話題は避けたのだが、そのことがS夫には申し訳なく思えてきた。彼は決して娘たちに何かを強制するような人間ではなかったが、自分の考えを隠すこともなかった。議論に長けていたのではないのは当然だった。外部の状況を彼なりに把握して彼自身の論理で実行する。それが唐突であることが度々あるから人を驚かせるだけのことだった。いずれにせよ正月の休み中もS夫は寡黙に馬の世話をし、娘がまたA市に戻る日が来た。二人が発つときは少し晴れ間の覗く日だった。森の向こうから鳥の鳴き声が響く朝、家族はおもてへ出て見送った。K美が作った弁当は笹の葉で巻いてある。S夫は二人に向かって、また来い、とだけ言うと、N美は深々と頭を下げた。二人は前日降った雪のせいでわかりずらい道を下っていき、すぐに見えなくなった。
その頃のS夫の家の生計は、徐々に工務店の仕事に頼るようになった。度重なる冷害によって不作になる作物を作り続ける余力は既になくなってきていた。S夫は自家用車を購入しそれに工作機械を積み込んで、市街地での仕事に従事した。ちょうどその頃、開拓事業者を融資していた鉄道会社が、事業とりやめをするという噂がたった。
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