5-2

雪解けを待たずに今や市街の中心部に鎮座した最新建築であるN市庁舎に、開拓事業の停止が告示された。S夫は来るべきものが来たとして、JとRが寝たあとの居間でK美と話した。開拓事業者は目下国家最重要課題であるところの、鉄道敷設工事の職が保証されている、とのことである。しかしそれは家畜と土地を放棄することを意味する。また鉄道工事に従事する者には都心部の公営団地があてがわれる。S夫の工務店紛いでは市の入札にも参加できないしS夫に仕事を依頼していた業者も、これ以上手伝いの人夫にさらに仕事を回すことも到底かなわないことだった。よって二人は横浜への移住を決めた。問題は家畜の処分であったが、それらは戦前からの農家が、開拓民の家畜をまとめて二足三文で吸い上げたのである。農家の態度は横柄であった。もとより開拓民を差別していた彼らはS夫の家畜に対しても、こんな年老いた馬はなんの役にも立たない、もらってやるだけありがたいと思え、とこともなげに言うことを忘れなかった。開拓地の最後の夜、澄み渡った空気の底でかつて畑だったものの向こうに森が見える。S夫はその先に水牛の姿を見た。水牛はじっとこちらを眺めてものを言わない。しかしS夫はこのときはっきりと敗北を悟ったのである。JとRは友人と離れるのを嫌がったが、その実都会への憧れぎなかったわけではない。彼らの不安はS夫とは異なるものであり、なにより期待があったのだ。
N美はS夫たちの決断を学生寮の玄関の電話で知った。それは単純に、故郷が失われるというひどく理不尽なものとしてN美たち姉妹に降りかかり、そのことは二人の関係を互いに同情する相手としてより強固にした。いずれにせよ二人にはそこに留まるより他なく、Y美は既に残り一年後の勤務先の病院が決定していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?