【BORDER .14】リバーランド ボーダータイム
名古屋市は大須にある洋食居酒屋「iegorico」を営んでいる・ゴリさん(岡部哲也さん)。今回の企画を考えた時、お誘いしたい人を考えた時に真っ先に思い浮かんだ人の一人だったのですが、面識がなくて諦めかけていた時・・・あやこさん(KINEMAS Chorus)がゴリさんとご縁があり、繋いでいただけました。企画のお誘いも含めほぼあやこさんにお願いして(甘えて)しまったのですが、快く引き受けていただいて本当に感謝です。この間、自分も大須で店を出したのですが、「iegorico」はご飯はおいしいし・それ以外のバランスもとても素敵で、尊敬する飲食店の一つであります。今回はゴリさんが作家として文章を書く時の名義「八手部かおる」でご参加いただきました。(KINEMAS宮下)
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題:リバーランド ボーダータイム 作:八手部かおる
朝靄と真っ白に広がったススキの間を、9才にしては小さめな体を、大きく荒々しくゆらし、押しかき分け進むミズキくん、赤とんぼが鼻先をかすめ彼の進行を止めた。
そこにあることも流れていることも気づかないくらい穏やかな今朝の川に出た。
膝を何処でぶつけたのか少し血が滲んでいた、肩の呼吸をやめ背筋伸ばし、お腹いっぱいに空気を吸い込むと、落ち葉と水の香りが新鮮な空気と一緒に入って来た。
イライラはフウーっと一息で身体の外に出て行った。
河原の下流へ1kmくらい歩くと、ミズキくん専用の大きな流木に到着、座りこんで、ぱっと広げた手をじっと眺め「これ水掻きだったんだ」と呟き、また深呼吸をした。
昨夜こと「お父さんから電話があって来週には帰ってくるって5年ぶりだよね~、」とお母さんは続けて「あとお父さんが、俺が河童ってことそろそろ伝えといてって言っていたわよ」と缶ビール片手にニヤリとチータラをくわえた。
一瞬カチンと固まってしまったが、質問攻めにしてやろうとお母さんに目をやると、細く寝息をたてて眠っていた。
酔っぱらったついでに言うことか~とミズキくんは怒鳴りたかったが、起こさずにお母さんに毛布をかけてあげた。
ミズキくんの家すぐ横の堤防を駆け渡り、多くの人たちがサイクリングやジョギングを楽しむ河川敷公園を横切ると、この川は流れている。
対岸には河原は無く深くなっていて堤防の中腹から鯉を釣ろうと糸をたらす人は少なくない。釣り人の間を、胡瓜をぶら下げて竿を出す子供たちが大人の笑いを誘う。
この川底には河童の国の入り口があるって聞かされているから、糸に胡瓜は河童釣りなのだ。
10才になると、川底まで一番深くなっている橋げたの中段上から飛び込み、川底にタッチした証拠に小石を持ち帰る度胸試しが夏の定番。
中学校卒業までの悪ガキランキングに響くから、魚が逃げると釣り人に怒鳴られようが、親に叱られようが飛び込みは無くならない。
河童が出るぞ!飛び込み禁止!!と書かれた市の立て看板まで立っている。
ミズキくんの流木から上流に2キロに、その橋はある。
来年には学校の仲間と挑戦する約束をしていた。
お母さんへの質問を用意して早起きしたミズキくんだったが、お母さんの出勤は、それよりも早かった。
「おはよう!いろいろ聞きたいでしょう、晩飯食べながら話そうね。行ってきますpeace!」の書置きと朝食が食卓に並んでいた。
「まだ5時だぞ」むしゃくしゃっとしたミズキくんは朝食は後にして河原に飛び出した。
いつもの流木に腰かけ 水掻きが発達してきた手を眺め深く呼吸して目を閉じ、9年の人生を整理しはじめた。モヤモヤしてしまい進まないまとまらない、、集中!っとミズキくんは ふーっと息を吐きゆっくり目を閉じる。
すると、頭に言葉が回答がすーっと入ってきた
「水掻きは出し入れ自由」
「目も水中用に膜が生えて黒目が大きくなるし、鎖骨の下に鰓もできる」
「河童が混ざっていることは他人には内緒」
「そう差別があるし、それ以上の事も!だから内緒」
「元々、河童は人に擬態するのは得意なんだ」
「君の両親がどこで出会ったのかなんて知るわけがないよ。」
ん?固く閉じていた目を開けると川の中に人?が立っていた。
ミズキくんは「河童さんですか?」と声かけると「半分な」とまた頭の中に続けて話しかけてきた。
「俺も人と河童のハーフだ、ノナカミズキくん。」
「あ!そのフルネームで呼ぶかんじ セイジ君だ!」と流木から飛び上がってミズキくんは喜んだ。
女みたいな名前といじめられていたミズキくんを助けてくれた憧れの先輩だ、セイジ君は中学生になったので半年会っていなかった。
セイジ君は川から上がり河童から人になると、背負っていた防水バックから乾いたタオルと服をだした。
靴下を履きながら隣に座り、ミズキくんの血が滲んでいる膝を見つけると、セイジ君はそこに手をあて「1.2.3」と優しい声でカウントしゆっくり手を離した。
するとミズキくんの膝から傷も痛みも消えていた。
「いろいろ教えるから、明日から毎朝同じ時間にここに来られるか?」
と聞かれミズキくんは笑顔で頷いた。
その日の朝ごはんは格別に美味しかった。
夜ミズキくんのお母さんはお父さんとの出会いから話してくれた。
ニコニコうんうん話を聞いてくれるミズキくんに ちょっと肩すかしされたが、話は弾みお酒は美味かった。
河童トレーニング5日過ぎた朝
「最終試験だ!ついてきて」と堤防を走り橋の上の歩道中央まできた「ここから川に飛ぶぞ」「橋げた中段じゃないの?」と困り顔のミズキくんに、ニヤリとするセイジ君は「ここからだ。」目の前の手すりを指さし自ら飛び込んだ。
川の中から優しいカウントがとどいた「5数えるよ5.4.3.2.1」深呼吸したミズキくんは、手すりの上に立ち下のセイジ君を確認すると、高く飛び込んだ。
「明日にはお父さんが帰ってくる、お寿司をねだって連れて行ってもらって、1人1本カッパ巻き頼もう。」とミズキ君は食卓に書置した。
この川は、花や木や鳥や虫の名前覚えるのも、自転車やスケートにキャンプや釣りに泳ぎ、好きな人と手を繋ぐのもキスも、この町の子供たちの初体験の場所になっています。
その川底には、河童の国への入り口がある。
はじまり はじまり。
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