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藍色の空

おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡

本日はとらねこさん企画、文豪へのいざない第13弾、《藍色の空》について書こうと思います。みなさんを青春の世界へと誘います。

茜色の空を見ている僕は、ずっと悩んでいる。月9ドラマの主人公を真似しているのだ。本当に良い答えが見つかるかも知れないから………。
それに茜色の空をじっくり見るなんて、僕には初めての経験だ。
すごくきれいな空だけど、どこか寂しい。
17時のチャイムが鳴った。僕の思考は停止したままだ。
「もう~僕には無理だよ~」
一人呟いた僕は、小石を蹴っ飛ばした。

中学校2年生、13歳の4月。
奇しくも学級委員長になってしまった僕は、副学級委員長のともこちゃんから告られた。
それは嬉しかったサ。こんなに無口でひ弱な僕の事を好きになってくれるなんて思いもしなかったから。
だけど、告られた翌日。僕はまりちゃんに呼ばれたのである。
「どーすんの? みーたんの事はどーすんの?」
みーたんとは、みゆきちゃんの事で、小5から僕の事が好きらしい。何度かみーたんとまりちゃんたちと遊んだ事もある。
中1の時、みーたんと同じクラスだった。学期ごとに席替えがあるんだけど、3回ともみーたんは僕の後ろの席だったんだ。くじ引きで決めたはずなのにね?
ってか、噂が広まるの早くない?

だからと言って、みーたんとよく喋っていた訳じゃない。
唯一、みーたんから「シャーペンを交換して欲しいなぁ」と言われたので、僕は一番お気に入りだった、プーマのシャーペンを交換した。
それくらいの関係性だし、お互いに告ったこともない。みーたんは優しい子だけどね。
それなのに、まりちゃんが僕の目の前で仁王立ちしているのだ。
「うーん。ちょっと待って。昨日の今日だからさあ」
僕は言い訳をすると、その場を後にした。

さらに噂が広まるのは早いもので、休み時間ごとに友達が僕のところにやって来ては冷やかして行った。
全く、暇なガキたちだゼ。

翌日。下校時にシンジラレナイ事態が起こった。
何と、陸上部のさちこちゃんからも告られたのである。
「もう~嬉しいんだけどさあ~何でこうなるの?」
僕はラブレターを受け取ると、自転車をうんならかして家に帰って行った。

現状を整理しておこう。
一番早くから知っているのはみーたん。同じ小学校出身。
まりちゃんはみーたんと仲良しの気が強い子。みーたんは優しい子。

副学級委員長のともこちゃんは同じ小学校出身だけど、中2になって初めて同じクラスになった。学級委員長と副学級委員長との関係上、毎日話すので親密性はある。ともこちゃんはスポーツが大好きな子。

陸上部のさちこちゃんは、別の小学校出身。中1の時に僕の妹と同じクラスだったらしい。ちなみに妹とは双子だからね。二卵性のね。
きっと妹経由で僕に近づいてきたのは間違いない。活発な子で、最近グイグイ僕に近づいてくるなとは思っていた。けどまさかラブレターを渡してくるなんてネ。

「うーん」

考えても答えが出ない。
ってか、僕ってモテるじゃん!
いやいやいや。
そういう問題じゃない。
この選択次第で、僕の中学校生活は一転、奈落の底に転落してしまう可能性を秘めてもいるのだ。
これは慎重にならなければいけない。
石橋を叩いて渡るってやつだ!
違うか?

3日が経過した。
僕はまだ結論が出ずにいる。すごく嬉しいけど、心が重たい。
夕飯を食べてお楽しみの月9ドラマを見ている時だった。
主人公が茜色の空を見ながら考えている場面を見た僕は、「これだ!」と思った。

翌日。祝日だけど部活が休みだったので、僕は朝から友達と遊びほうけた。
しかし、駄菓子屋で掛け時計の16時のメロディーを聞いた僕は、瞬時に3人の子の顔が浮かんだのである。
そして現在も雲ひとつない空。
「悪いけど、先に帰るわ」
僕は友達にボソッと言った。
「どうした? まだ4時だぞ?」
友達が聞いてくる。
「俺の…俺の答えを待っている人たちがいるんだ!」
その場がしーんとなった。
決まった…日頃から月9ドラマを見ている成果だと僕は感じた。
「そうか。ご両親にヨロシクな」
友達から大笑いをされた。

茜色の空が色を失いつつある。
いくら考えても、僕の答えは出ない。
いっそのこと、全てをおじゃんにしようか?
それはダメだ。3人とも僕の事を好きになってくれたんだ。僕が逃げてどうする。

ずっと僕の後ろの席にいた、優しくてつき合いの長い、みーたん。
副学級委員長として僕をサポートしてくれるスポーツ大好き、ともこちゃん。
周囲を度外視し、グイグイ迫ってきては元気良く喋る、さちこちゃん。

茜色の空が完全に色を失った。
結局、答えは出なかった。
だけど、僕の心が軽くなっている事に気づいた。
その時、僕は閃いたのだ。
サッカーの大会前やテストの前日などは、いつも不安で心が重たい。
だけど当日になってしまえば、勝敗は抜きにしても、一生懸命戦っている自分がいることを僕は思い出したのだ。
つまり、茜色の空を見ていたこの時間帯が、一番僕はプレッシャーを感じていたのである。だから夕飯を食べてお風呂に入ってぐっすり寝ればいい。
そして当時の朝になれば、僕は新しい自分に生まれ変わっているんだ。
そう、生まれ変わった朝に、答えを出せばいいんだ!

「ありがとう。茜色の空さん」

僕は自転車のライトスイッチを右足で蹴った。重たくなった自転車を漕いで僕は家に帰って行った。


翌日、僕は少し早く学校に到着した。
クラス内にもまだ数人しかいない。
僕は学生カバンから手紙を取り出すと、席を立った。

担任の先生が教室に入って来た。
僕は号令をかける。
「起立。おはようございます。着席」
担任の先生が点呼を取っていく。
みんな大きな声で返事をしていく。
僕も負けじと大声で返事をした。


副学級委員長のともこちゃんだけ、返事が震えていた………。


【了】


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