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今年初のキャンプへ 後編

宵闇の中、僕はランタンを点灯した。このランタン色がより一層、雰囲気を醸し出す。まだウグイスの鳴き声も聞こえる。

ここで僕はカセットコンロを点火した。

「ええっ…炭ぢゃないの? なんでそんな文明の利器を使うの?」

なんて声が僕の耳に届きました。

「だって炭だったら火加減が難しいのですよ。それに今から取り掛かる料理は本日のメインディッシュ。失敗するわけにはいかないのですョ」

フライパンに、これでもかってくらいオリーブオイルを投入。
次いでニンニク、マッシュルーム、牛肉を投入。
最後にアサリを投入し、蓋をして1分待ちます。

蓋を開けて完成です。『牛肉とアサリのアヒージョ』です!

まずは親方が喫食。

「美味しい。美味し過ぎます。ありがとうございます」
酔っても親方は謙虚さを維持し続ける。これぞ親方の醍醐味なのです。


次いで僕ちゃんも喫食。
「嗚呼…我ながら満足できる味になったぢゃないか。ハハッ☆彡」
笑い声を上げてしまうくらい、美味しくできました。

柔らかい牛肉に舌鼓をうちながら、マッシュルームと冷凍の烏賊が思いのほかオリーブオイルとマッチングしました。

あとはアサリですね。もう間違いないです。単に焼いても良かったのですが、今日くらいは変化球というか、何事も挑戦してみないと分からないことがあると、齢を重ねる度に経験をして参りましたので、思い切ってオリーブオイルの海に投入してみたのです。

結果、美味しくて大成功でした。

レモンサワーがグイグイ進みます!


「し…しまったあああああぁ」


僕は両手で頭を抱えました。

「どうしました? 何かの発作ですか?」
親方が椅子から立ち上がった。

「大丈夫だ、親方。僕はまたやってしまったんだ。本日のメインディッシュの写真を撮り忘れてしまったのだ」

怒り心頭の僕は、残っていたレモンサワー缶を一気に飲み干した。ここまで缶ビールと合わせると、8缶も飲んだことになる。

すると、親方がフライパンを覗いた。
「TAKAYUKIさん、まだ間に合いますよ」

親方の呼びかけに、僕は冷静さを取り戻した。

そして僕はスマートフォンを取り出すと、パシャと撮影した。



牛肉とアサリのアヒージョ。本当はもっと山盛りだったんですョ"(-""-)"


嘆いても致し方ない。
人間はいつだって過ちを犯すもの。その過ちからいかに早く立ち上がるか。そして二度と同じ失敗をしないと、心に誓うのだ。さすればその失敗はやがて成功の糧となり、笑い話になるのである。


ある程度お腹が満たされたので、いよいよ焚き火の開始であります。


「僕に任せて下さい」

キャンプ職人である親方が、焚き火を段取りしてくれた。


10分後、見事に焚き火の爆ぜる音が場内に響き渡った。




焚き火を見事に操る親方。頼もしい盟友である。


時おり小雨がタープを叩いたけれども今は止んでいて、わずかだけど星も見える。

焚き火の爆ぜる音を聞いているだけで、心が軽くなっていく。

買い物をしたり旅行に行ったり、温泉に浸かったり、様々な楽しみ方やリラックスする方法がある。

けれども、一番効果があるのは、やはり自然の声を聞き、肉を喰らい、焚き火を見ることが、人間の原点・出発点であると思う。それに出費も最小限で済むし、これ以上の癒しがどこに存在すると言うのか。


「親方、僕たちは今日まで生きてこられた。この先、何を望む?」


僕の問いに親方は深く考え込む。

別に僕は答えを聞きたい訳ではない。なんて言うか、焚き火を前にすると、普段では言えないことや、考えても見なかった言葉や想いが突然降ってくるのだ。

普段はそれを周囲の雰囲気を乱してはいけないと口に出すことはない。だけど自然の中で焚き火を前にして遠慮することはない。言いたい事、感じた事があれば素直に吐き出せばいいのだ。

それこそが本当のコミュニケーションのはずだから。


このあと2時間、僕と親方は焚き火を前にして、大いに語り合った。


そしたら腹が減った。


「親方。しばし待たれョ。小生が〆のパスタを拵えてみせよう」

「へい。それではお願いします」

親方もかなり飲んだけど、まだ大丈夫。10年以上の付き合いだ。何か異変があればいくら酔っていても気づけるものだ。

僕はカセットコンロで湯を沸かし、塩を投入してパスタ3人前を投入した。

一方で、焚き火の片方を借りて、先ほどのアヒージョの残りを温め始めた。

味が薄いかも知れないので、残ったニンニクをざく切りにして投入。オリーブオイル、塩、そして最後に少量の醤油を入れて味付け完了。


ゆで上がったパスタとアヒージョを混ぜ合わせて完成。


「親方。どうぞ召し上がれ」

すると親方は、今日初めて飯をくらう高校生のように、パスタをどんどん流し込んでいく。

僕も負けじとパスタを喫食。
なるほど、これは美味しい。

牛肉と烏賊、さらにはアサリの出汁がパスタに絡まって、素晴らしいクオリティとなっている。輪切りの唐辛子を投入すれば、れっきとした海鮮風ペペロンチーノとなっていたであろう。


あれだけ飲んで食べたのに、箸が止まらない………。


「TAKAYUKIさん、マジで美味しかったです」


親方が心の底から礼を言ってくれた。これは本当に美味しかった証左だ。大切に受け取っておこう。


「し、し、し、しまったああああああああッ」


僕は再び頭を抱えた。そしてレモンサワー缶を手に取るも、すでに空。缶ビールと合わせて12缶も飲んでしまった。

だけど、そんなことはどうでも良いのだ。

「ど、どうされました?」
親方が椅子から立ち上がった。

「僕はまたやってしまったんだ。それも舌の根が乾かぬうちにだ!」

「パスタの写真を撮り忘れたのですか?」

「その通りだ。これだから僕の人生は失敗続きなのだ。ぬおおおっ」

僕は椅子から立ち上がると、どうして良いか分からず、パラパラを踊どりはじめた。


「それは自分だって同じですよ」


すると親方もパラパラを踊り始めた。


横目で親方のパラパラをチラ見するも、ちゃんと踊れている。流石だ!


僕はもう一段ギアを上げた。

すると親方も負けじとついてくる………。


ランタンと焚き火に照らされながら、良きオジサン2人がキャンプ場のサイト内にて、こともあろうかパラパラを踊っている22時。

自暴自棄のパラパラ!

「親方、果たして僕たちの人生はこれで良いのか?」

「モチのロン。勿論です!」

身体が熱くなってきた。酔いのせいか、たまに踊りながらフラついてしまう。

「バチン………パン!」

焚き火の爆ぜる音が、さらに僕たちの踊りを加速させていく………。


その時、僕は視線を感じた。


恐る恐るその視線の方を見ると、そこに男性が懐中電灯を照らし、僕と親方を交互に見ていた。

「あの…22時になりましたので、消灯時間です。火の始末をしてお休みください」

管理人の男性はそう言うと、脱兎のごとく管理事務所に戻って行った。


僕と親方は白い吐息を吐きながら、後片付けを開始。


降ってきた小雨にせかされながら、僕たちのキャンプは幕を閉じました。



本日も最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。


キャンプとパラパラって相性が良いかも知れません!



【了】



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