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正月の帰省

おはようございます。
kindle作家のTAKAYUKIでございます☆彡

本日はとらねこさん企画、文豪へのいざない第15弾、《正月の帰省》について書こうと思う今日この頃であります。

中学校に上がると、僕は実家が嫌いになった。なんでこんな田舎に住んでいるのだろう。何をやるにしても不便。サッカー部すらなかったのだから。
聞けば、母方のおばあちゃんが田舎に住みたいからという一言で、この地に住むようになったそうだ。それまで僕は東京に住んでいた。そのまま東京に住みたかったと、本当に年を重ねるごとに思うようになっていった。

大学に入学すると同時に、僕は実家から離れることに成功。念願の一人暮らしだ。誰も僕の事をとやかく言う人はいない。それも東京だ。こんな素晴らしい事はない。

そんな大学生活を送っていた僕に、年末がやってきた。
しつこい両親からの電話で、仕方なく実家に帰省することにした。

電車を乗り継いでいく。
車窓から見る景色が、ビル群から田んぼに変わっていく…。

気づくと、車内はガラガラになっていた。

15時過ぎに最寄り駅に到着。
駅員に切符を渡して改札を出た。
久しぶりの地元だ。相変わらず閑散としている。
僕は徒歩で実家へと歩いて行く。道中、人がいない。寂しいと思いながらも、10分で実家に到着した。

母親が出迎えてくれた。奥で妹がこちらを見るも瞬時に目線を逸らした。
父親は相変わらずの一番風呂。

18時。少し早いけど、夕食となった。
僕の大好きな豚カツと肉じゃがを母親が作ってくれた。久しぶりの手料理にやはり美味しいと感じる。
母親が色々話してくる。僕は適当に相槌をうつ。18歳の若造には、まだ親の存在が厚かましい。
妹が僕を何度もチラ見してくる。だけど僕から話しかける事はしない。父親は年末放送の時代劇を見ながら晩酌をしている。それも顔をしかめて、時に目を大きく見開いて。

昔から一緒に暮らしてはいるけど、どこかまとまりのない家族。
結局、ご飯を3杯もおかわりした僕は、お風呂に入って、すぐに寝た。

翌朝、犬の散歩に行った。
サモエド犬のロンと一緒に。誰がロンと名付けたかは忘れたけどネ!
ロンと一緒に田舎道を駆けて行く。こんなに小さな道だったかなと思う。特に通学路はそう感じる。

母校の小学校に立ち寄った。
「ああッ………TAKAYUKI君だあ」
子供たちが駆け寄ってきた。
高3の夏休みにサッカースクールが開校し、僕は小学生を対象にコーチという肩書でサッカーを教えていたのだ。高校を卒業するまで僕はコーチを続けた。
その生徒たちが年末だと言うのに、サッカーに勤しんでいる。
これは僕にとっても嬉しい再会だ。
「みんな、上手になったか?」
僕は問いかけた。
「ハハッ。TAKAYUKI君になんかもう負けないョ」
その一言で、僕の闘志に火がついた。

僕はロンを連れて帰宅すると、サッカー使用の服に着替え、馳せ参じた。
僕のチームは3人。相手は9人だ。
僕は本気で彼らと対峙し、彼らをこてんぱにした。
久しぶりのサッカーは、不貞腐れていた僕の心を軽くしてくれた。
その後、僕は彼らと日暮れまでボールを蹴っていた。

大晦日の夜は友人宅に集まった。ジュースとお菓子を持ち寄って話に興じ、ゲームに興じた。
空が明るくなると、神社へ行って初詣。そのまま海岸に行き、朝日を見た。炊き出しの豚汁が最高に美味しかった。

僕は一睡もせずに帰宅した。
仮眠をとると、母親特製のおせち料理を食べる。
僕はおせち料理が苦手なので、ハムとかサラミとか煮物を食べる。お刺身も赤身しか食べない。妹はバクバク食べている。

父親は元気に熱燗を飲んでいる。朝からまた時代劇を見ている。
母親もビールを飲んでいて、ご満悦だ。
特にこれと言って会話もない。ただこうして家族で元旦を迎えただけで、十分なのだろう。

お雑煮を食べて、元旦恒例の天皇杯サッカー決勝戦を見る。これも正月の醍醐味の一つだ。

すると父親が僕のところに来た。
「正月だからな。少くねーけどョ」
父親がお年玉をくれた。
僕はあと3日で19歳になると言うのに…。
「今年も元気によろしくね」
母親もお年玉をくれた。
大学の学費を支払うだけでも大変なのに…。
「ありがとう…」
僕は視線をテレビ画面に戻すも、心の底に違和感を覚えたせいで、集中して見ることができなくなった。

2日の朝、僕はお雑煮だけ食べると、実家を出る準備を始めた。
明日からアルバイトが始まるのだ。
夜に帰ればいいじゃんと母親が言ったけど、僕はその申し出を断った。日を重ねるごとに実家への愛着が高まっている自分に気づいたからだ。
時が止まっているように思えて大嫌いだったこの田舎町。この環境から早く抜け出したくて僕は進学したのだ。その自分が今更実家が良いからと嘆くわけにはいかない。

最後まで妹とは話さなかった。別に仲が悪いわけではない。双子だから常にお互いを意識せざるを得ない環境で生きてきたので、しばし会話がなくても十分。だって双子なのだから。お互い考えている事は何となくわかる。
これぞ双子あるあるだ!

実家を後にした僕は、駅まで歩いて行く。

小さな道も枯れた木々も、僕をノスタルジックな世界へと誘ってくれた。
実家を出ておよそ9ヶ月。初めての帰省は僕を初心に帰らせ、僕の心身を癒してくれたように思う。自分を見つめ直す時をくれたのだ。
両親が僕を生んで今日まで育ててくれた。それだけで十分じゃないか。

過去と和解し、未来を信じて進んで行こう。

電車に乗った僕は、車窓から見る景色がずっと田んぼであって欲しいと願った。


【了】

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