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やっぱり家がいちばん落ち着く!

目が覚めた僕は、憂鬱な気分に襲われた。起床時間まであと15分ある。
今日から1泊2日で静岡県内の温泉宿に投宿する。4人での小旅行だ。昨日までみんなと連絡を取り合い、準備している時はルンルン気分だった。室内にも関わらず、僕は一人スキップを繰り返し、中学校の体育の授業以来、僕は前回り受け身をした。残念ながら受け身は失敗し、左手を痛めた。そのまま絨毯の上をぐるぐる転げまわったり、天井を見ながらひとり爆笑したりした。
ベッドに入るも、心が弾んで中々寝付けなかった。

だけど、今の僕は億劫になっている。旅行には行きたくない気分。例えて言うなら、月曜日の朝の状態。それくらい今の僕にはストレスがかかっている。
みんなと合流すれば楽しい旅行になるのは理解している。旅行とはどこに行くかではなく、誰と行くかで楽しさの有無が決まるからだ。そういう意味では友人たちと僕との相性は抜群だ。

ぢゃあ、何が僕を悩ませているのか?

それは次の言葉だ。
「やっぱり家がいちばん落ち着く!」
どんなに楽しい旅行に行っても、結局この言葉が発せられるという事は、つまり旅行自体がかなりのストレスを要するという証左なのではないか。

知らない土地に長時間かけて赴き、ご当地の飯と酒を喰らう。千鳥足で観光名所を巡り、宿に投宿。温泉に浸かり、見知らぬ人の裸体を見ながら、「嗚呼…温泉って最高」ってつぶやく。
楽しみの夕食を和室で頂く。いわゆる部屋食だ。ここでもご当地の飯と酒を喰らってわいわい騒ぐ。

だけど、今頃家に泥棒が侵入していないかと不安になったり、元栓はちゃんと閉めたよな? と疑心暗鬼に陥って思うように楽しめない。
再度、温泉に浸かって湯に当たる。
部屋に戻って、再度飲酒。

日付が変わる頃になって布団に入るも、枕が低くて何度も寝返りを打つ。いびきがうるせー。放屁するな。という状況下で、僕はほとんど眠れずに朝を迎える。
何となく眠れるかなと思いきや、一番いびきをかいていた奴が、「朝だ。もう一度温泉に入って、朝食を食べよう。いい天気だぞ」って音頭をとりやがる。

チェックアウト時、僕は疲労困憊しているのだ。

その後は再び観光地を巡り、人波に酔い、通り雨に打たれ、暴飲暴食を続けながら、お土産代に全財産を費やす。その間にも僕のリュックサックには使用済みの下着類が入っている。これもストレスだ。下着類には着々と菌が増殖しているからだ。早く洗濯機で洗いたい………。

帰りは満員電車に揺られながら、座席に座れない始末。そして明日からの仕事の事を考えて辟易する。

玄関の鍵を開けてリビングに到着すると、僕は大きなため息をつく。
そしてベッドに入ると、「やっぱり家がいちばん落ち着く!」と言い眠りにつく。

そう、このパターンが今の僕の脳内を駆け巡っているのだ。
スマートフォンのアラームが鳴った。
「やっぱり旅行に行くのはやめようかな?」
それは駄目だ。キャンセル料が発生するし、何より友人たちからの信用を失い、僕は在野武将になってしまう。
スマートフォンのアラーム音がピークに達した。
「うわあああああッ」
僕は大声を出した勢いでベッドから出ると、スマートフォンのアラームを停止した。
身支度を済ませると、室内の施錠を確認し、玄関の鍵を閉めた。


1時間後、友人たちと合流。
久しぶりの再会に、ちょっとだけ恥ずかしい。

新幹線に乗った僕たちは、早速ビールで乾杯した。一人だけ下戸の友人がいるので、彼には申し訳ないが現地では運転手として活躍してもらう。
だから僕は、彼に300円もする高級な珈琲をおごった。


結果、とても楽しい1泊2日の旅行と相成った。


沖縄を思わせるような素敵な海と新鮮な魚介類と酒が最高でした☆彡


無事に帰路に着いた僕は、すぐさまシャワーを浴びると、冷蔵庫からビールを取り出して飲んだ。
うまい。ビールは僕の救いだ。
そして次の言葉が自然と僕の口から出た。


「やっぱり家がいちばん落ち着く!」

【了】


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