(1/3)洗脳原論(苫米地英人著) を読んで
前々回は「終わりなき日常を生きろ」(宮台真司著)を基にオウム真理教の地下鉄サリン事件が起きた社会的背景について記しました。
今回は実際に、人はどのように洗脳されるのかを記したいと思います。
人が洗脳されるなんてことが果たして可能なのか、どうも実感が湧いてこないかと思います。ここでは「洗脳原論」(苫米地英人著)を主として題材に扱いたいと思います。
洗脳を行うには、相手を変性意識状態(altered state of consciousness)という特殊な意識状態に陥らすことが基本です。変性意識状態とは簡単に言うと、“情報空間に臨場感を持っている状態”といえるでしょう。
情報空間に臨場感を持っているとは分かりにくいですが、例えばリラックスしているときとか映画を見ているときとか話を聞いているとき、本を読んでいるときとかですね。より強い変性意識状態はトリップ状態などが挙げられます。
トリップ状態はさておき、こう見ると日常にありふれている状態です。例えば話を聞いている場合、物理レベルで言えば音の波(疎密波)に過ぎません。しかし我々は音の波に反応しているのではなく実際は音波に乗った情報を受け取っています。情報空間に臨場感があるとはそういう意味です。物理レベルの音の波で会話が成り立つなら、日本語の知らないアメリカ人に「今日は暑いね」といっても会話は成り立つでしょうが、実際はそんなことありません。
こうして見てみると、逆に変性意識でない人は存在しません。物理空間に100%存在している人はいないはずです。正確には物理空間から少し情報空間に揺らいでいる現実を(別言すると物理、情報両方の空間にまたがって)生きているといえます。例えば物理レベルでは鼻の先が見えているはずですが、見えてなかったはずです。でも目の前のパソコンは見えています。それにしたって、各人の自我によって見え方が違いますし体験質(クオリア)も異なります。
なので以下の文章で変性意識と言うとき、それは普段の変性意識状態よりも強い変性意識状態のことを意味していると思ってください。
なぜ変性意識状態か?それは内部表現(internal representation)を書き換え易いからです。
内部表現とは簡単に言うと、“頭の中のあらゆること”と言っていいでしょう。
頭の中のあらゆること、というのは例えば五感から入ってくる情報に対するリアルタイムの脳内の電気信号といった物理レベルの話が一方。他方には例えば、自我や主義信条、意識、無意識、記憶といった情報レベルまでを含む広い意味で内部表現と言います。
変性意識とは情報空間に臨場感を持っている状態であり、情報なので書き換えが可能です。そこでどの情報かというとその人の内部表現である、ということです。
内部表現を書き換えると、その人のホメオスタシス(恒常性維持機能)によるフィードバックで、書き換え後の内部表現が自動的に実現されます。
ホメオスタシスとは簡単に言うと”元に戻ろうとする機能”または”安定しようと作用する機能”といえるでしょう。
これも難しい話ではなくて、よく知られているのが体温のホメオスタシスです。大体平熱は36.8±0.3度と言われています。そこから大きく上がると自動的に(無意識に)下げようとして汗をかき、下がると震えて体温を上げようとします。これは体温のホメオスタシスにより、外界との相互作用の末、生体にフィードバックする結果です。
今いったのは生体と環境という物理レベルの間の相互作用ですが、それが情報空間にも広がっています。
よくある話としては、「あなたは運転が下手なんだから注意して運転してね」と奥さんに言われた後に、夫が交通事故を起こしてしまう。これは夫の内部表現である運転下手な自分が維持され、無意識でその自分を実現しようとホメオスタシスによって事故を起こすということです。
他には、これはお風呂の時とかリラックスしているときに試してほしいのですが、まず目を瞑った状態で上を、おでこを見るようにグッと何秒間か見てください。その後に”眼が開かなくなれ!”と念じます。そして目を閉じたまま目を正面にもっていき、瞼を開こうとします。すると開きはしますが、少し抵抗するかと思います。これはラピッドアイロールと言って、なぜか目を、おでこを見るように上を向くと変性意識状態になれます。そこで、言語によって目が開かなくなる内部表現に書き換えたのです。そこでその内部表現通りにホメオスタシスが働き、目が開きにくくなるという事です。
極端なレベルですと、聖痕現象(スティグマ)があります。これはキリスト教の熱心な信者がキリストの磔を思うあまり、例えば手の平に赤い点のようなものが起きる現象です。内部表現に対してホメオスタシスのフィードバックが働き、生体レベル(物理レベル)に影響を及ぼします。
ここまで言ったことをまとめると、
変性意識状態によって内部表現が書き換わり、ホメオスタシスのフィードバックによってその内部表現が実現する
ということです。
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