happy V

(20100215脱稿)

 うわ、すげぇ。これライブ写真じゃん。チロルチョコでこんなこと出来るんだ。ねぇこれもらってもいい?
「ひと組だけだぞ」来場者用なんだからな、とリーダーが言った。まあ、どうせみんな欲しがるだろうから、とそれなりの数は作ってもらったらしい。じゃ有難く、とひと組3個をいただいて、俺は友人に電話をかけた。「ー俺だけど。日曜日逢える?ーうん、じゃ、そっち行くから」ありがとう、と俺は電話を切った。さあ、今日はこれからライブだ。

「日曜日?判った」電話の向こうから楽屋のざわめきが聞こえた。今日どうしても抜けられない僕に、君からの電話。日曜日に君と逢えるー日曜日って、14日?14日って、バレンタインデー?やばい、何かすげえドキドキしてきた。俺なんか用意した方がいいよな?

日曜日。呼び鈴が鳴った。確認の応対のあと、君を部屋に招き入れる。ライブを終えて間もない君の顔は晴れやかで、とても綺麗に見えた。ライブの日も寒かったけど、今日も寒いよね、と君が言いながら奥に進む。コーヒーを煎れてキッチンから戻ると、君の雰囲気が尖っていた。
「ーこれは?」テーブルの上の、僕が作ったチョコに一瞥をくれて、僕を睨めつける。「ふーん。好いひとからもらったんだ」ー君以外に「好いひと」なんていないのに。どうしよう。完全に勘違いをしている。
「お前が」冷たい、細い手を捉えながら君に弁解する。「お前が今日来てくれるって言うから俺が作った。確かに男がバレンタインチョコを手作りするのは変だけど、俺はお前にそうしたかったから」気恥ずかしさで耳の先まで熱くなった。この熱が、握りしめた君の手にも伝わって欲しい。
 つと、君が顔をあげて僕を見つめた。少し上気したように頬に紅を挿している。ーその、すごく、可愛い。
「俺はお前にこれを渡したくて」小さな紙包みをポケットから出した。「絶対喜ぶと思って」レアものだぞ、と君が小さく呟く。僕の掌に3つ、チロルチョコが転がってきた。ー確かにレアものだ。僕の手作りよりも遙かに。
 君を僕の熱の中に引き寄せよう。だって今日は想いを伝える日だから。

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