同じ行為でも好きな事と嫌な事

三十代半ばになった今でも忘れられない事がある。
小学校の卒業間近の事だ。
思い出作りのために、と言う事で「二十歳になった自分へ」という手紙を書き、学校が保管して成人式に渡してくれる事になった。所謂タイムカプセルみたいなことをした。
子ども達のことを思って先生達が企画したのだ。
それはそれでいいと思う。しかし、なにも書くことが思い付かなかった私は、
「二十歳の僕へ。元気にしていますか?」
とだけ書いて提出した。
すると先生に書き直しをさせられた。
「夢や希望、理想を書きなさい」
と言われ居残りまでさせられた。
そんなこと言われても書くことが無かった私は困って教室で頭を抱えていた。一文字も書けなかったのだ。辺りが暗くなりはじめた時、先生に
「これは良い事だよ。思い出作りなんだからやりなさい」
と言われ両手で腕を掴まれて、先生の言う通りに思ってもない夢と希望、理想を書かされた。
「嘘なんて書きたくない」
と言っても、
「良い子の文章を書きなさい!これは良い事なのよ!」
と頬を打たれた。
泣きながら先生の納得する文章を先生の言う通りに書いた。
成人式は行かなかった。その手紙を見たくなかったからだ。
あんなに屈辱な思いをしながら文章を書いた経験をしたのに今は自分から小説を書いてる。
自らやるのと他人からやらされるのではこんなに違うものなのだ。


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