踊る La Vie en Rose.#1 行き止まり。
???「✕✕はさ、将来の夢は?」
✕✕「…はぁ?考えたことねーよ」
???「えぇ?考えたほうがいいよ」
✕✕「小学生はそんな先のこと考えねーの」
???「そんなことないって笑」
✕✕「じゃあ、〜〜〜〜になりたい」
???「なにそれ笑 お金稼げないよ?笑」
✕✕「うるせぇな。お前はどうなんだよ」
???「私はね、〜〜か、〜〜〜になりたい!」
✕✕「あっそ」
???「もうちょっと興味持ってよ笑」
✕✕「そう言われてもなぁ…」
???「わかった!じゃあ将来〜〜〜〜になった✕✕の〜〜〜いてあげる!」
✕✕「なんだそりゃ」
???「もし夢が叶わなくても、それなら悲しくないでしょ?」
✕✕「余計悲しくね?」
???「そうかなぁ?」
〜〜〜〜〜
現場監督「✕✕!」
✕✕「はい!」
現場監督「時間。あがっていいぞ」
✕✕「お疲れ様す」
薄汚れたタオルで顔の汗を拭う。
現場監督「今回の分」
✕✕「あざす」
手渡しの給料袋を受け取り、作業着の上に着たジャージのポケットに突っ込む。
現場監督「お前、3ヶ月くらいウチ来てるけどここに落ち着く気ねぇの?」
✕✕「あー、そっすね。身軽にやってこうかと」
現場監督「…お前いくつだっけ?」
✕✕「19っすね」
現場監督「彼女は?」
✕✕「いねーす」
現場監督「…そろそろ所帯持つ準備っていうかよ、貯蓄はあるに越したことねぇだろ?」
✕✕「まぁ…、そっすねぇ〜」
現場監督「……まぁ、いいや。気ィ変わったらいつでも言え」
✕✕「あざっす」
テキトーに聞き流して、鞄に諸々突っ込んで、俺は現場をあとにする。悪い人じゃないんだが、やや干渉ぎみでめんどくさい。
〇〇「潮時か〜」
一所に留まると、色々面倒が増える気がする。
面倒は少ないに越したことはないだろう。
夜の街を歩きながら思う。
いずれ投げ出すのは目に見えてるんだから。
目的地に着いて、暖簾をくぐる。
村山「…おつかれ」
✕✕「どーも」
やや年季の入った風呂屋。
受付に座ってる女子にいつも通り、料金を支払う。
村山「…まだ現場、続いてんだ?」
✕✕「まーね。もうやめっかもだけど」
村山「…は?なんで?」
✕✕「なんでもよくね?」
俺はとっとと、男湯の暖簾をくぐる。
村山「ちょっと…」
手だけ暖簾から出して、またあとで。
とでも言うように振る。
どうせ洗濯回してる間、喋れるだろ。
手早く頭と体を洗い、人もまばらな湯に浸かる。
今の生活を初めてはや3ヶ月ほど。
何もないボロアパート、現場、この風呂屋、そしてあの酒場。ほぼこの4つをぐるぐると回るだけの生活が、3ヶ月間続いている。
閉塞。
完全な行き止まり。
停滞。
どうしようもないと理解はしている。
虚無。
こんな日々に意味なんてないこと。
億劫。
それでも、変化を起こす気にもなれない。
干渉。
面倒と思いつつも、新しくバイトを探すのも、また面倒だと思う。
何も考えず、このまま風呂に溶けてしまいたい。
そんなセンチメンタルも、下手くそなクロールだか、犬かきだかで泳ぐ子供の飛沫にかき消される。
✕✕「…少年」
子供「ん?」
✕✕「風呂で泳ぐのはマナーが良くない。やめとけ」
子供「まなー?」
✕✕「…カッコよくないってこと。あとタオルを湯につけるのもよせ…」
子供「…なんで、頭に乗せてんの?」
✕✕「…これは様式美だ」
子供「ようしきび?」
✕✕「そうするのがカッコいいってことだ」
子供「ふ〜ん…」
子供は頭にタオルを乗せる。
素直なやつ。
✕✕「ん、それでいい。粋でいなせだ」
子供「…よくわかんない」
✕✕「カッコよくてカッコいいってこと」
子供「へぇ〜」
〜〜〜〜〜
✕✕「あぁぁ〜〜〜」
コインランドリーを回しながら、待合スペースでマッサージチェアに座る。
✕✕「村山ぁ〜〜…」
俺は200円を受付に座る村山に向けて差し出す。
村山「…あのさ、人を自販機みたいな扱いしないでくれる?」
✕✕「村山ぁ〜…」
村山「…はぁ」
わかりやすくため息をついて、村山は受付から立ち上がると、すぐ横の冷蔵ケースから珈琲牛乳を手に取る。
村山「…ん」
✕✕「どうも…」
受け取って、200円を渡す。
村山「座る前に買えって言ってんじゃん」
✕✕「……いっつも忘れる」
村山「絶対嘘でしょ」
✕✕「……」
俺は天を仰いで、目を閉じる。
村山「…都合悪いとすぐ黙る」
村山は諦めたように踵を返して受付へ戻る。
村山「……で、ほんとにやめんの?」
✕✕「どうすっかね〜……」
村山「……」
黙り込んだ村山を薄目で見る。
✕✕「なんでお前がそんな顔すんの?」
村山「…どんな顔」
✕✕「…形容しがたい顔」
村山「…なにそれ」
✕✕「……」
脱衣所から乾燥終了のアラームが鳴る。立ち上がって、洗濯物を適当に畳むと、カバンに放り込んだ。
待合スペースに戻ると、変わらぬ表情で村山がこちらを見ている。
村山「…今日も行くの?」
✕✕「……どした、今日は」
村山「……なにが」
随分踏み込んでくるじゃん。
✕✕「……」
受付まで行って、200円をカウンターに置く。
✕✕「おごり」
村山「……なんかある度そう言うけど、ご機嫌取りのつもり?そんなんで喜ばないから」
✕✕「……」
村山の言葉を無視して、俺は出入り口に向かう。
✕✕「…じゃ、また来るわ」
村山「…………バカ」
聞こえるか聞こえないか。そんぐらいの音量の罵倒を背中に受けて、俺は風呂屋をあとにする。
干渉をウザがりながら、俺はそれでもこの風呂屋に足繁く通ってる。断ち切りきれない人の営みを思い出しにでも来てるように。
〜〜〜〜〜
土生「あ、こんばんは」
✕✕「…ども」
風呂を済ませたその足で、その酒場へ。
Bar La Vie en Rose.
まだ未成年で酒は飲めない。それでも、俺は定期的にこの店に顔を出してる。
はっきりとした理由はわからない。
まだ夢を追っていた頃、俺はジムの会長に連れられてこの店を始めて訪れた。
ここで酒を飲める頃には、俺にも薔薇色の人生が待ってる。
そんなばかみたいな幻想を抱いて。
今はその残滓でも味わっているのかもしれない。
土生「由依のとこ空いてるよ」
✕✕「……」
俺は無言で頭を下げる。
土生「…あんまり元気ない?」
俺の顔を覗きこむ土生さん。
スラリと高い背、整った顔立ち。
気遣いや立ち振る舞い。
綺麗なスタッフばかりのこの店で、この人は特に女性のファンの多いイメージがある。
✕✕「…いえ、いつもこんなもんです笑」
土生「……そっか。どうぞ」
少し悲しそうに土生さんは笑う。
案内された席に向かいながら、何をやってんだろうと、自分自身に呆れる。
小林「お疲れ」
✕✕「…ども」
小林「…いつものでいい?」
✕✕「任せます…」
小林さんはいつも通り、酒の飲めない俺に、時期のフルーツを使ったノンアルコールのドリンクを作ってくれる。
小林「…仕事は?順調?」
✕✕「…どうすっかね」
小林「歯切れ悪いね」
✕✕「……よくわかんないす、正直」
普通の仕事ってのを、初めてやってるから。
人と人の営みの、一部しか知らないから。
小林「そう……」
✕✕「……」
???『今更人間のふりなんて出来っこない』
脳裏に今なお残る言葉。
それがじわじわと、実感めいてくる。
✕✕「……なんかすんません」
酒を飲んだわけでもないのに、まるで悪酔いでもしたみたいに、モヤモヤとした気分になる。
もしかしたら村山は、そんな俺を見越して、今日も行くのかと聞いたんだろうか。
帰るか…。
わざわざやって来ておいてなんだが、今日はいい客でいれそうもない。そう思って、グラスあおる。
???「おい、高すぎねーか!?」
少し離れたカウンター席で、声を荒げる男。
中肉中背。赤ら顔。スーツ姿。
どこで聞いてきたのか、酔った勢いでノコノコやってきちゃったタイプか。
田村「すいませんが、適正な料金です」
田村さんだったか。
直接話したことはほとんどないけど、丁寧で明るい接客をする人って印象。
赤ら顔の男「酔っ払いだからってふっかけてんじゃねーか!?」
田村「そんなことはありません」
周囲の客も騒ぎに気づいてか、チラチラ視線を送りながらヒソヒソと何か話してる。
今日はセンチメンタルに浸る時間も与えられないらしい。俺は、決して気の長い方ではないという自覚はある。それでも普段ならしなかっただろう。
たまたま今日は、虫の居所が悪かった。
✕✕「おっさん…、不愉快だよ」
小林「…ちょっと」
赤ら顔の男「…あ?」
そういう反応もいらつく。
✕✕「聞こえなかったか?不愉快って言ってんだよ」
赤ら顔「…なめてんのか?」
✕✕「なめてんのはお前だよ」
俺はポケットからスマホを取り出して、サイドボタンを2回押す。
✕✕「誰でも指先一つで何時でも監視カメラになれる時代だぞ?馬鹿やってねぇでさっさと金払って帰れ」
男の視線が周りの客にも向けられる。
既にスマホを構えていた何人かは、気まずそうに手を下ろした。
✕✕「明日の朝にはあんたの恥さらしてる姿が、SNSを賑わすぞ」
赤ら顔の男「……チッ」
男は万札を1枚置いて、足早に店を出ていく。
今時いるんだな、ああいうの。
小林「…動画、消して」
✕✕「…撮ってないす、カメラ起動しただけで」
土生さんが先程スマホを構えていたお客さんの元へ。たぶん動画を消してもらうようお願いしに行ってるんだろう。
小林「気遣いはありがたいけど、勝手に喧嘩売るのはやめて」
✕✕「…すいませんね」
俺は千円札をカウンターに置いて立ち上がる。
結局いい客ではいられなかったな。
✕✕「帰ります」
返事も待たずに歩きだす。
田村「あの…!」
田村さんがカウンターから声をかけてくる。
✕✕「すんません、余計な真似して」
田村「あぁ、いや…」
続きを待つこともなく、軽く頭を下げて店を出る。お客さんに対応中の土生さんや、他のスタッフさんの視線を感じるけど、なにも気づかないふりをして店を出た。
夜の街。
ガヤガヤとした人波を避けるように路地に入る。表通りは夜が更けようとも灯りが消えることはない。
路地裏も、人通りが少ないだけで別段真っ暗って印象もないけれど。
✕✕「……で?いつまでやんのそれ」
一定の距離を開けてついてくる足音に話しかける。
赤ら顔の男「……」
お前かよ。
✕✕「なんか用?」
赤ら顔「どいつもこいつも馬鹿にしやがって」
✕✕「馬鹿にされるようなことしてるからじゃねーの?」
赤ら顔「っ!」
バタバタと走ってくる男。
馬鹿みたいに振りかぶって、殴りかかってくる。
もちろん当たる気はないので避ける。
空振りした男はよろよろとバランスを崩す。
✕✕「……」
なんだろう。
そんなことにすらイライラする。
男は振り返ってまた無駄な動きで殴りに来る。
おおよそパンチとも呼べない、子供にげんこつでも食らわせるみたいな動き。
さっきと同じことの繰り返し。
男のよろけた背中を軽く押してやると、あっけなく前のめりに倒れる。
うんざりだ。
こんなやつでも昼間はマトモに社会生活を送れてるんだとしたら、一体俺はなんだと言うんだろう。
ちらりと自分の右手を眺める。
かつて一度砕けた拳。
栄光を掴み取れると信じた拳。
けれど今尚、人を殴ることの出来ない拳。
こんな奴なら、殴ったって構わないだろ?
人の迷惑も考えないような奴。気に入らないなら、人を殴ったって構わないなんて奴。
そんな奴なら、それこそ気に入らないから殴ったって構わないだろ?
そう思いながら、俺は拳に力を入れる。
その瞬間、ビキビキと痛みが走る。
幻痛。本当はありもしない痛み。
まともに拳を握れないほどの激痛。
ピクピクと指先が震える。
✕✕「チッ…」
痛いのは嫌いだ。
幻痛に苛まれる度思う。
何のための痛みなのか。
こんな奴に、何をためらう必要があるのか。
ピコン。と間抜けな音が聞こえた。
男がいつの間にやら、スマホを構えている。
動画の録画開始音か。
俺は一切の迷いも躊躇いもなく、男のスマホを蹴っ飛ばした。カシャンと音を立てて、スマホが地面に落ちた。
✕✕「おっさん、人をイラつかせるのうまいね。普通にこんな状況でそれは怒らせるだけだろ…」
意趣返しのつもりか?アホなのか?
俺はノロノロとスマホまで歩いて、何度か踏みつけて、丁寧に破壊する。
男の方をチラリと見ると、その表情は明らかに引いている。ドン引きだ。
✕✕「ケンカ売るなら相手選べ。わかったら帰れ。二度とその顔見せんな」
バタバタ走り去っていく背を見送って、俺はその場にしゃがみ込む。
✕✕「……」
くだらない。
まったくくだらない。
なんだこの人生は。
あくせく日銭を稼いで、その日暮らしして。
将来のこと考えろと言われて、面倒になって。
馴染みの風呂屋で子供に説教たれて。
タメの女に心配されて。
憧れた酒場でジュース飲んで粋がって。
馬鹿に喧嘩売って、自分も馬鹿になって。
そんな馬鹿を一発殴ることも出来なくて。
マウント取って、勝手に白けて。
クソくだらねぇ。
なんだこりゃ。
こんなことがしたくて生きてんのか?
そんなことのために生きてんのか?
誰か終わらせてくんないか。
自分で終わらせる勇気も持てない、臆病者だから。
???「なにやってんの?」
声のした方へ視線を向ける。
✕✕「…小林さんこそ、何してんすか」
あの人が立っていた。
営業終了の時間とも思えないし、仕事着のままだから、帰り道ってわけでもないだろう。
小林「忘れ物」
差し出された手には、確かに俺のスマホが握られている。男に向けたあと、カウンターに置きっぱなしにしてしまったんだろう。
俺は立ち上がって、スマホを受け取る。
小林「で?」
✕✕「なんにも…」
ほんと、なんにも。
✕✕「なにしてんだか、なにがしたいんだか…」
さっぱりわからない。
小林「……」
✕✕「……すいません、帰ります。スマホ、助かりました…」
何やってんだ。
この人に弱音吐いて何になる。
そうじゃないだろ。
こんなはずじゃなかったろ。
小林「…ねぇ」
✕✕「…はい」
呼び止められて、振り返る。
小林「……なんにもやりたいことないんなら、私の手伝いする気ない?」
✕✕「…は?」
突然の申し出に困惑する。
小林「……私、夢というか、目標があんの」
ついて行けない俺に構わず、小林さんは話し始める。
小林「フレアバーテンダーのコンペ。2人1組でパフォーマンスするタンデムっていう形式で参加するコンペがあんの。それでいい成績。出来れば1番を取りたい」
✕✕「……」
どんくらいの規模か、どれくらいの難易度かはわかんないが、一番というからにはなかなか難しいのだろう。そんで、俺に何を手伝えと言うんだ。
小林「…私と組んでみない?」
✕✕「…はぁ?」
正気か?
バーテンダーの経験なんて俺には一切ないのに。
✕✕「…出来るわけがない」
小林「……ほんとに?」
✕✕「……」
小林「…やろうと思えば、出来るんじゃないの?」
✕✕「…何を根拠に」
小林「…自分の体を操るセンス。誇れるものがあるのするなら、それだけ」
✕✕「…古い話をよくもまぁ」
いつだったか。
なんかのインタビューで話したこと。
新人王のプライドにかけて。
とかなんとか言われて、俺にあるのは自分の身体を操るセンスだけ。そう言ったんだっけ。
小林「何回、私のパフォーマンス見た?」
✕✕「…覚えてませんね、そんなこと」
小林「……それで?やる?やらない?」
無茶苦茶だな、この人。
✕✕「…そんな手伝いをすることに、俺になんのメリットがあるんです?」
小林「…酒も飲めないのに定期的にやって来て、私の目の前座るやつが、私に頼まれて、私の手伝いが出来る。それ以上のメリットあんの?」
びっくりしてしまう。
キョトンってやつだ。
✕✕「…ククク、カカカ笑」
小林「笑い方怖…」
あぁ、いいな。
この人のこういうとこ、いいな。
積み重ねてきたもんがあって、
それにちゃんと自負があって、
そっからくる自信が、カッコよくて。
✕✕「…じゃあ、あんたになんのメリットがあんです? ただの酒も飲めない客にそこまでする理由は何ですか?」
小林「……」
小林さんは少し悩んで、
小林「……後悔したくないから。かな」
✕✕「…後悔?」
小林「……昔後悔したことがある。いや、違う…。その時はしょうがないって思ってた。でもそれは言い訳で、本当は後悔してたんだと思う…」
小林さんは、俺に話すというよりも、何処か違う誰かに話すように、遠くを見つめてる。
小林「…私も、もう後悔はしたくないから」
改めて、俺に視線を送ってくる。
小林「…このまま何もせずに放っておいて、いつか突然あんたが店に顔を出さなくなったら、その時私はきっと後悔する。そうならないために、私は私にできることをしたい。それだけ…」
✕✕「……」
この人の真意は俺には分からない。
でも、どうせ浪費していくだけの人生なら、この人の口車に乗るのも悪くはない。
20歳。
そこに行き着くまでは、なんとか生きて行きたいとと思ってるから。
20歳になって、この人の作る酒を飲んで、それで何も変わんないなら、それで終わりでいいと思ってたから。それまでの間、この人に乗せられても、まぁ、いいんじゃないだろうか。
✕✕「…そんな理由で周りは納得するんすか?」
小林「さぁね。そんなとこまで考えてない」
考えてないのかよ。
✕✕「……わかりました。乗りますよ、その口車」
小林「……そう。明日オープン1時間前に店まで来て。話はしておくから」
✕✕「…わかりました」
小林さんは踵を返して、店へ戻っていく。
路地を曲がる直前、ちらりとこちらを振り返る。
小林「…ちゃんと来てよ」
✕✕「…行きますよ」
その背中が見えなくなってから、俺は歩きだす。
奇妙な夜だった。
俺はどうしたいんだろう。
あの人を手伝って、仮にあの人が目標を達成したとして、それがどうなるっていうんだろう。
その結果、俺に何があるっていうんだろう。
もう、俺に夢はない。
けど、もしかしたら夢を守ることは出来るのかもしれない。
夢ってのは、時々スッゲー熱くなって、
時々スッゲー切なくなる。らしい。
何処かの誰かがそう言ってた。
その熱が、
その切なさが、
俺に何かを与えてくれるだろうか。
俺はトボトボと帰り道を行く。
これから始まる、ゆるやかな終わりまでの道程を思いながら。
行き止まり。END.
NEXT.二束三文のプライド。