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『「漏れ聞こえる音」の中でいちばん怖い音』

20240512


 僕の家の周りは家に囲まれている。
 
その一軒に老夫婦が住んでいるのだが、その家から物音が漏れ聞こえてくることがよくある。
 
 特に自分の部屋はその家と接しているので、自室で何か作業しているときなんかに、よく音がする。テレビの音や、お皿を重ねたような音、玄関先で立ち話をしている音なんかも、ぼんやりと聞こえる。
 
 日常の生活の音は気にならないが、先日、その家から聞きなじみのない妙な音が漏れ聞こえてきた。


 
 それは、AIの自動音声だ。

 
怖かった。

具体的な内容こそ聞こえなかったが、この世の中の「漏れ聞こえてくる音」部門において、AIの自動音声が最も恐ろしい気がした。
 
それも、ある程度のお年を召した方が住んでいる家から聞こえてきたのだ。
 
 
 もしかしたら、その夫婦は何かの文章を自動翻訳機能を使って読んでいただけかもしれない、または雑学を説明するタイプのショート動画をスマホで爆音と共に見ていたのかもしれないし、テレビで雑学を説明するタイプのYouTubeを音大きめで見ていたのかもしれない。

 
 たとえそうだったとしても、隣の家は時代に追いついているんだとか、そんなことより恐怖が勝った。

小さい画面のショート動画からしか聞いたことのないような、あの説明調だけれど、無機質で機械的かつ話し言葉としてはあまりにも不自然な自動音声がその家から漏れ聞こえてきたとき、その家の内部で何が起こっていたのか気になってしょうがない。

 
 真実かどうか定かではないネットの情報をAI自動音声を通して摂取してしまっているのか、それとも、何か自分の趣味を楽しむために必要な音声をAI自動音声によって取得していたのか、自分が干渉するまでもないことだとわかりながらも、しばらく考えてしまった。
 
 
 後日、その家の前を自転車で通った時、夫婦仲良く玄関前の花をめでていた。その光景はAI自動音声の不自然さから程遠く、純粋な自然の関係を見た気がして安堵したが、自分の老後が急に不安になった。



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