固い床の刑(詩)

 「君はそっちで寝なさいよ」
私は梯子を登ってくる彼に向かって言い放つ。
「床固っ」
「そりゃそうだよ、下に僕の使ってるマットレスも毛布も投げ捨てたじゃない。せっかく気を使ったのに。」
私と、彼は固い床の上に2人雑魚寝の状態になる。私はお酒でズンズンと痛む頭を押さえながらリモコンで電気を消す。
「なんで電気消すんだよー!えー、寝るの?」
「寝るよ、もう四時だし、僕は朝から仕事にいくんだから」
「あーなんで、こんな床固いとこで寝なきゃいけないんだよー、ほんとは今頃映画一緒に見てさー、一緒に寝てるはずだったのにさあー」
「罰だよ罰、罰ゲームだと思いなよ」
私の家を罰だという自虐、哀れだと思いながら私は目を瞑る。彼が闇の中でボソボソとつぶやく。
「なに、ずっと相談受けてたんすか?今日」
「そうだよ、で、こうなったわけ。言いたいことあるなら早い方がいいんじゃない?って」
「ひどいよぉ、おれここまで来んのすげー時間かかるんだよお。遠くから来てんのにさぁ。なら先に言ってくれよ、来ないからさあ。」
「僕もやだったよ。僕は2人とも好きなんだから。でもたぶん、このままいったらあっちがマジで修復不可な爆発起こしてさ、なんとなくみんな仲良いみたいのも吹っ飛ばして、終わりになりそうだったんだよ。あの娘我慢するんだもん。それもよくないけど。でも2人ともまたくっつくにしてもくっつかないにしてもさ、今みたいのを止めてからだよ。卑怯じゃん。」
「なんだよ、ちゃんとするって、みんなちゃんとなんてしてないじゃん。」
「僕もそう思うよ」
気づくと彼のイビキが聞こえてくる。私にはなんの得のない一日だったような気がして、どっと疲れた気分になる。
(でも、あっちもこっちも放っておけないよなあ、馬鹿だなあ)
私がアドバイスしたことは良いことだったのだろうか。彼に付き合うから、面倒見るから、といったのは意味があったのだろうか。良いか悪いかもわからない。私こそが極悪人かもしれない。未来、この日の私のよかれが大災厄を呼びおこし、頭を抱える自分を想像する。身の毛もよだつまま私の意識は遠のいていく。これでよかったのだ、と言い切るにはまだ私は愚かだ。見返りという言葉が一瞬霧のようにまつ毛のあたりを掠める。見返りなどというものは詩である。見出すことしかできない。与えられるものではなく、もう実は受け取っていたんだと気づくものなのである。

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