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「泥沼映画地獄道」企画書

キャッチコピー:おもろい映画を作ってやる! ろくでなしがはまった低予算映画制作沼。夢と地獄は紙一重!

あらすじ:ホラー映画マニアの無職・権藤雄介(26)は半グレの友人に借金男の見張りを頼まれる。そこは低予算ドラマの撮影現場。メガホンを撮っていたのはホラー映画の巨匠・永山監督だった。感激した権藤は、ホラー映画の監督を目指すAD・堀川宗秀(24)から「プロデューサーは名乗れば誰でも成れる」と聞いて「ホラー映画のプロデューサーになる」ことを決意。そして優柔不断で気弱な低予算映画御用達シナリオライター・築城モモヨ(28)を紹介されて活動開始。が、そこは地獄の一丁目。関わる人間すべてが万年金欠病、地獄の鬼のような低予算映画制作の世界で、権藤たちは超エンターテイメント映画を作る夢に向かってもがき続ける。

第1話のストーリー:
「金払ってくださいよ」
 権藤は請求書片手にすごんだ。権藤にとってギャラの取り立ては3回目。
 シナリオライターの築城モモヨ(28)のためだ。
「すいません」
 モモヨは恐縮した。声も小さい。オドオドして無駄に笑顔。やたら「すいません」と言い、頭をすぐ下げる。これでは舐められても仕方がない。その上、超低予算ネットドラマのシナリオ料は3万円。権藤は3万円をそのままモモヨに渡した。謝礼なんか取る気は無い。昔の権藤なら相手にもしない人間だ。だが、今の権藤にとってモモヨは必要な人間。
 権藤はプロデューサーを名乗っているものの、映像制作の世界に入ったばかり。
 始まりは、地下ギャンブルで作った借金の取り立てを任されている半グレの友人から映画監督の見張りを頼まれたことから。撮影現場に行くと、メガホンを撮っていたのはホラー映画で有名な永山監督(50)。ホラー映画狂の権藤は大感激。現場は永山監督を中心に活気づいていた。
 権藤は崩壊家族出身。高校中退、仕事も続かず夢も無い。ガタイが良いので10代のころは不良グループに目をつけられたりしたが、20代はアルバイトやヒモ、半グレのパシリで何とか生活をしている。映画の現場は、そんな権藤の世界とは全く別物だった。
「プロデューサー、これが俺の目指すべき世界」
 現場はADの堀川(24)以下、その場にいた全員がプロデューサーを絶対権力者として崇めていた。それを見た権藤はこのプロデューサーというものになってやろうと決意する。
 撮影が終わっても興奮が冷めやらぬ権藤は、AD堀川に声をかけた。ホラー映画マニアで監督を目指しているという堀川と大いに盛り上がり「一緒に何かやりたいっすね」と堀川と乾杯。その場で、事務所名を『メイガンピクチャーズ』と決め、プロデューサー就任宣言をする。
 事務所は自宅アパート、打ち合わせは喫茶店か公民館。でも夢は大きく。
 しかし―――。
「いきなり映画会社やテレビ局に行っても相手にされませんよ」
 しらふの堀川は冷徹だった。
「だからといって自主映画だとスタッフを集められない。そもそも今の無名なプロダクションではプロが集まってくれない」
 堀川がいうには、この世界でやるならとにかくコネ。コネが先だという。
 権藤は、半グレの友達のコネを頼って、探ってようやく日本の動画配信サービス大手のCMMドットコムのドラマ窓口にたどり着く。

第2話以降のストーリー
 担当者に「面白い企画なら制作費の半分を出しても良い」といわれ、権藤は堀川と一緒に企画を考えることにする。
 あれやりたいこれやりたいとはしゃぐも、堀川から「超弱小制作会社が面白い小説やマンガに手を出せない」と現実を突きつけられる。
「まず図書館に行って端から端まで本を読んでください」
 堀川は相変わらず厳しかった。
 そして堀川が連れてきたのがモモヨ。低予算ドラマのシナリオを書いているプロ。しかしギャラの交渉がへたくそで金欠。堀川の紹介で探偵助手をしていた。
「探偵助手?」
 なんと堀川は探偵を副業にして生活を立てていた。
 モモヨは堀川に探偵助手の仕事を紹介してもらい、「どこにでも居そうだから尾行や出待ちで気づかれにくそう」ということで採用されている。
「大丈夫か」と心配する権藤だったが、集中力とスピード、出来上がりの原稿はさすがプロという感じ。
「モモヨ先生と出会ったのは僕にとって僥倖です」と図書館通いで覚えた言葉を駆使して話す権藤。
 それにしても「どいつもこいつも金がない」。こんなに金欠ばかりが揃って大丈夫なのだろうか。もちろん権藤も無い。
 権藤は、モモヨのギャラの取り立てをしてやる代わりに企画書をバンバン書いてもらう。もちろん企画が通って仕事になったらギャラは払う(つもり)。
 堀川がいうにはモモヨは企画書のプロ。
「500本ぐらい書きましたかね」
 が、それでも滅多に企画は通らない。ほぼ通らない。権藤はプロの世界の厳しさを垣間見て慄くが―――。
「いやでも権藤P凄いですよ。だって枠を取ってきたんだもん。枠を獲れるの凄いです。頑張りましょう!! いえ、頑張らせてください!」
 堀川も同じく「権藤さん、プロデューサー向いてますよ」と言ってくれた。
 権藤は居場所を見つけた気がした。
「三人で頑張ろう」
「おー!」などと言いながら企画会議をする三人。
 権藤は企画書の内容で一番重要なのは「ウリ」と知る。で、とりあえず「ウリ」として永山監督の名前を利用することに。
「金の話をすれば、永山監督は大丈夫です。撮ってもらいましょう」
 金を返済しなければならない―――仕事なんか選んでいる場合じゃない永山監督は、企画書に名前を入れることをOKする。
 企画書を提出すると「ホラー映画の永山監督のようなビックネームと仕事をすることは奇跡」と担当者も大喜び。
 企画は難なく通り、30分ドラマ、三本を制作することになったが……。
「一本、300万円?」
「いや、一本、100万円。三本で300万円」
 堀川とモモヨが悲鳴を上げた。なんと権藤は一本100万円でドラマ制作を受けてしまったのだ。
「相場よりもずいぶんと安いような……」とモモヨ。
「3本、300万円って、監督にいくらぐらい払うんですか?」
「ギャラ?」
「私はノーギャラですよね……」
 権藤はすべての経費をこの300万円で補うということを知らなかった。
「俳優は2人いけるかな。三本まとめて取るしかないか。ロケといっても許可が取れるところで。道とか公園。うーん」
 考え込んでしまう二人。
 その上、権藤には金がない。その上、永山監督が前借を要求、その上……その上と次々と問題が起こる。
 そんな時、ドラマのプロデューサーをやっているという噂を聞きつけて半グレをやっている友だちが「俺の女、女優目指してるんよ。出してやって」と言ってきた。
 仕方なく堀川とモモヨに言ってみる権藤。すると二人は「その子を主役にするしかない」と大賛成。
 とにかくシナリオを書きあげたが、今度は永山監督と連絡が取れない。
 借金返済が出来なくなり遂に飛んだのだ。
 堀川やモモヨの探偵術を駆使しても見つからない。
 権藤も昔の伝手を頼りに探しまくる。すると、半グレに監禁されていることが分かった。
 権藤は土下座をし、金を工面することを約束する。
 殴るけるなどのヤキまで入れられた権藤。
 感謝する永山監督だったが、それを見ていた半グレの上原(26)は「権藤くん、俺が何であの監督の見張りを頼んだかわからないの?」と呆れるのだった。
 権藤は日雇いの仕事やギャラの良い仕事を掛け持ちし金を作り、何とか撮影の準備にこぎつける。
 シナリオハンティングや小道具など、映画作りで考えることは辛く大変だったが、心の底から夢中になれた。そして堀川が集めたスタッフも巨匠・永山監督と仕事をできることに感激していた。
「私は書いたら役目は終わりですから」というモモヨをエキストラ役として引張りだし、いよいよ撮影当日。
 モモヨが強面スタッフたちから「先生」呼びされていることや着々と撮影準備が整えられていくことに驚いたり感激したりの権藤。
「やっとここまで漕ぎつけた」
 しかし、永山監督は現れなかった。
 うろたえる権藤に「低予算は時間が大事」と堀川が代理で監督をし始める。
 ベテランスタッフが言うことを聞いてくれるのか心配する権藤だったが、現場は堀川監督の下、無事撮影を終える。
 実は、集まったスタッフは「永山組」といって永山監督の下にいた人ばかり。
 なんと永山監督はADやスタッフにも金を借りていた。そして永山監督が現場から消えるのは馴れっこだという。
「堀川が現場仕切ることなんてしょっちゅうだから」
「ギャラは直払いでお願いします」と笑うスタッフたちに、映画作りの不気味さすら感じる権藤だった。
             〇
「で、私のギャラは……やっぱり」
「払う」と言って権藤はモモヨに3000円を渡した。
 3本のドラマを納品した。出来上がった作品はあまり面白くなかった。クレジットには永山監督とあるのも虚しい。
 ただ、主役の女は大喜びで、何度も電話をかけてくる。
 堀川やモモヨは「よくあることですよ」なんて余裕をかましながら、副業を頑張っていた。
「次もよろしく」と軽く言う二人。そして権藤は、堀川もモモヨも強面スタッフたちが、誰にでも「次、よろしく」と言い、映画作りをするとなると「一緒に頑張りたい」と言っていることを知る。
 俺に言ったわけじゃないんだ。映画を作れる居場所に言ってんだな……。
 それでも夢と地獄は紙一重な世界を渡り歩く人間たちの世界は、権藤には居心地が良かった。
 みんなを集めて映画を撮る。その場所を作る。それがプロデューサーの仕事なのかもしれない。
 とにかく俺はプロデューサーになる。
 堀川に監督の才能があるかどうかは別にして、権藤は、これからは堀川を監督として売り出そうと決める。
 今回は儲けは全くない。それどころか権藤は割りの良い日払いのバイトを続けなければ借金となる。だがそんなことに負けてはいられない。
 権藤は図書館通いをしながら次の作品を考えるのだった。


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