新番組「小川さんといっしょ」

 日替わりで様々な小川さん(おじさん)と子供たちが戯れる番組。全国からランダムに集められた小川さんは非常にぎこちなく、テレビ慣れしていないただのおじさん。体操のお兄さんもかねるのでかなりのハードワーク。
 ペラ1枚の企画説明が渡され叩きだされ、治安悪めの子供たちに股間を執拗に蹴られ、歌のお姉さんからは冷たい視線で刺される。男性の心の痛みが凝縮され、マスコットのおじさんは無駄に写実的な造形が子供たちの悲鳴を呼ぶ。番組全体が陰鬱で放送禁止CMのような雰囲気である。
 
 当然、抗議が殺到する。「子供が泣き止まない」「怖すぎて悪夢にうなされる」「小川さんたちに失礼だ」ごもっともである。この時代に珍しく一切スタイルを変えず小川さんはなぶられ、精魂尽き果てスタジオを後にする。
 ある日の小川さんと一緒。不穏な空気が流れる事態になる。連れてこられたのは、おじさんというにはあまりに屈強すぎる小川さん。はち切れんばかりの大胸筋、丸太のような腕、たわわに実ったバナナの房のような大腿筋。髪はべっとり撫でつけられ、歯はあまりに白く、爽やかというよりギットリとした雄々しさ。あらゆる嫌がらせのような企画を次々といなし、何事もなかったようにエンディングを迎えてしまう。その様子を苦々しく見やるのは番組プロデューサー、一つ目紳士。ギョロリとした禍々しい眼が慌ただしく蠢き、右腕を上げつつ脇を隠すサインをすると、どこからか戦闘員(AD)が8名現れる。屈強な小川さんを四方八方から羽交い絞め、ひとりが睡眠薬を注射、その日の番組は終了する。
 
 屈強な小川さんが目覚めると、四方を寒々としたコンクリートに囲まれた一室。鋼鉄の輪できつく手足を壁を背に拘束され、身動きをとれない。そこへ一つ目紳士がやってくる。金色のステッキで屈強な小川さんを小突く。
「何故、ここにいるか分かるか」
「いや、皆目見当つかない。トレーニングがある。返してくれないか」
「それはできん。再教育が完了するまではな」
「何が目的だ。あなたは何者だ」
「お前が知る必要はない、知ったとて覚えてはいないだろう」
一つ目紳士が去ると、戦闘員(AD)がディスプレイを運び入れ映像が流される。屈強な小川さんの悲鳴が響き渡り、夜が明ける。

 その後も数日に渡る拷問によって憔悴しきった屈強な小川さんは、都内某所で解放された。立つこともままならないなか、前方から精悍な小川さんがやってきて手を差し伸べるのと、その手と手はかたく結ばれた。そして小柄な小川さんの運転するハイエースに乗り込む。
 何故、全国から小川さんが集められ、弄ばれ、場合によっては拷問されるような番組の放送が許されているのか。多くの謎に包まれながら小川さんたちによる復讐が始まる。。。。


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