おだやかな江藤

 どんな状況でも微笑みを絶やさない江藤。何をされても決して怒らない江藤。媚びず、動じず、表情を変えず、ただそこに鎮座する江藤。そんな彼の生態を書いていこうと思う(意味不明)。

「野球部」
 ただ図体がデカいというだけで、キャッチャーをやらされた中学時代。無駄に厳しい監督に竹刀で小突かれても、ほほ笑むだけ。合宿中、先輩の悪ノリで裸踊りを強制されるが、一枚も脱がず、微動だにせず、その微笑みのウドぶりに何もせず許される。肩は強く、そのガタイでランナーをブロック。
打率は低いが一発のあるロマン砲。三年生になるとその穏やかさから慕われ、後輩がじゃれてきたが、本心ではイラついていた。しかし、笑顔は絶やさない。彼はほんの少し、人より理性が強めなだけである。

「柔道部」
 ただ図体がデカいというだけで、入部させられた高校時代。本人は勧誘にたいして「あ、う、僕は、え、と」と、どもっている間に部室に誘導される。力は強いものの、「母親から人に暴力をふるってはいけません」「人に優しく」と躾られているため、技を出し切れず試合では連戦連敗。というわけで、マネージャーの雪乃と一緒にタイマーの管理や麦茶づくり、テーピングや畳クリーナーの発注などをせっせとこなした。いつしか練習よりもマネージャー業務専任となり、三年生なるころには後輩にも慕われ、「彼女とかいるんすか」などと弄られるが、本心ではイラついていた。しかし、笑顔は絶やさない。彼はほんの少し、人より理性が強めなだけである。

 こんな人がたまに存在する。怒られても、イジメられても、弄られても、一切怒ることができないウドの大木。何を考えているかわからない大男。

 おだやかな江藤は、たとえ世界がゾンビに溢れたとしても変わらない。ゾンビですら傷つけることができず、押しのけてピンチを脱したのちに、「もしかして傷つけてしまったのでは」と心配する優しさ。最早、怖い。
 
 真夏。近所のコンビニでガリガリ君ソーダ味を買って、店の前で食べていただけでヤンキーにビビられる。身長193センチ、体重130キロ、五分刈り、使い古されたクロックス。微笑みウド。本人はなぜ怖がられるか理解していない。パワー系の悲哀である。

 そんな彼はやや支配的で心配性な母親と、無口でしっかり者の父親の間に生まれている。母親の喜ぶ顔が見たくて、母親の言いつけを厳守し、いつも穏やかな父親を見習って育った。そのため、かような仕上がりになったのだ。嫌な事が起きても、怒りを発することでトラブルを増幅するより、自分が一歩引くことで、損をしてでも事なきを得ようとする。
 社会人になった江藤は、やはり面倒事を押し付けられ、損ばかりしていた。その様子を見ていた同期の女性社員の涼子に、
「嫌なら断ればいいのに」
「もっと自己主張しないと、損ばかりだよ」
「やるべきことを全うしてれば、誰も文句言わないから」
 恋でも始まりそうだが、始まらないのが江藤である。そして、わざわざ言ってくれるイイ子には、彼氏がいる。いつのまにか結婚している。
 おそらく、婚活パーティーに足しげく通う。マッチングはしない。自分から声をかけられず、話もつづかないからだ。ある日、高校の同窓会の誘いがくる。そこで、一緒にマネージャー業務に勤しんでいた雪乃と再会する。好きなドラマの話で意気投合して、交際に発展する。守る存在ができたことで、少しは自己主張できるようになり、誠実で働き者の江藤は仕事も順調。そして、雪乃とゴールイン。二男一女に恵まれ、益々、仕事に勤しむ。

 ここまで書いてきてなんだか、この話は何なのか不明である。
 一つ確かなのは、江藤のモデルは元読売ジャイアンツ、広島カープ、西武ライオンズと渡り歩いた江藤智選手である。文化放送『文化放送ライオンズナイター』では、江藤を「微笑みのバズーカ」と称している。

 

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