その時、私は(6)「バスジャック」

「もし自分の乗ったバスがジャックされたら」
長距離バスに乗ってしばらくして乗客の一人が牛刀をとりだしたら、
その時、私は「あぁ、面倒くさい。早く帰りたい」と思うだろう。どこか他人事で自分事としては捉えない。正気を保つために。一方で取り押さえられないかと考えるが、相手は素人とはいえ自分も素人であって、多少腕力に自信はあるものの、凶器をもった人間からは逃げるべきだろう。専門家も大体そういった時は逃げるのが得策と口をそろえる。とはいえ、いつこの状況が終わるともわからず、徐々に不安に苛まれていく。
 サービスエリアに入る直前で、パトカーが追いかけてくる。「止まりなさい」という警察の呼びかけに反応したのか、一番前の運転手側の中年女性三度切りつけた。皆、息を呑み悲鳴もない。後部の座席の窓側の私はとにかく自分のところには来るな、早くどこかで警察が突入してくるはずと自分に言い聞かせる。後どれくらいで解放されるだろうかと、思ったところサービスエリアに到着。すでに警官隊にいて、過去の経験もあってかあっさりバスを取り囲み、警官が犯人と交渉している間に後方の窓が割られ、閃光弾が炸裂した。次々と警官が投入し、犯人を取り押さえた。私は後方の非常口扉から他の乗客とともに救出される。犯人はパトカーに押し込まれる。
 一件落着だが、残念なことい女性が一人亡くなってしまった。その後はマスコミに取材されたり、noteに体験談を投稿して若干バズったりするがほどなくして日常がもどってくるだろう。
 いざ、という時に勇気など簡単に出せるものではないし、無理してだすものでもない。命あっての物種である。とはいえ家族ががいた場合はどうか。
立ち向かうのはいいが、自分が殺されてしまったら元も子もない。やはり、おとなしくしておくべきか。難しい問題だ。

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