推しの推しを推したら、推しチームと出会えた話
推しが推してるから、推そう。
最初のきっかけは、そんな軽薄にも思える、しかし私にはとても大事な出来事からだった。声優さん大好きな私の、最推しである森川智之さん。その森川さんが、8/20、始球式をすると知って、お恥ずかしながら横浜DeNAベイスターズの長年のファンであることも知った。これは見逃せない、と私は当日、自転車を走らせ夕食もろもろを手早く買って、ニコニコに張りついた。勇姿を見届けるぞ、と意気込んだ。
番組では、速水さんもご一緒されていて、とても楽しそうだった。私もなんだか嬉しくなり、試合経過を共に観ているつもりで画面越しに応援した。とても興奮し、時間があっという間だった。プロ野球のプの字も分からない私だったが、漠然としてではなく、勝って欲しいチームがいる心境での観戦は、新鮮で、鮮烈で、今までなぜ私は野球に縁がない生活をしてきたのだろうと不思議なほどだった。
いや、野球に本当に触れてこなかったかというと、実はそうでもなかった。妹一家は野球に関わりが深かった。妹の旦那は実業団のピッチャー、甥っ子はリトルリーグで奮闘、姪っ子も某ドームで売り子をしたほどだ。仲の良かった先輩は埼玉西武ライオンズが好きで、よく話をしてくれた。知人の一人は東京ヤクルトスワローズの熱狂的なファンだった。
私が球場で野球を見たのは三度。
1回目は、妹の旦那が投げる実業団の試合で、大阪ドーム。
2回目は、知人から誘われて現地に行った、神宮。
3回目は、先輩のご好意で連れて行ってもらった西武ドーム。
初球場だった大阪ドームは、観客席に座ると、想像していたよりずっと広く、ピッチャーとキャッチャーの距離がかなりあるように見え、とてもびっくりした。何度かテレビで観たことはあったが、もっとコンパクトに思えていたので、なにもかもが衝撃だった。
実業団野球の観戦では、身内が投げていたので、とにかく「打たれないで、打たれないで」と念仏のように唱えていた。少し特殊な状況だった。覚えているのは、まだ赤ちゃんだった姪っ子を、気が高ぶるたびにそっと撫でていたことくらいだ。
神宮は、知人がフードやドリンクの説明をしてくれて、まるでお祭りの感覚で、あれこれ買って始終わくわくしていた。あまり飲まないビールも頼んでしまった。球場全体の盛り上がりが心地よかった。
西武ドームは、毎年年間シートを2席ほど確保している先輩から、「娘が急遽用事があって行けなくなったんだけど、どう?」とやたら軽いノリで声がかかり、ホームの試合だから1席でも埋めておきたいのだと説明され、なるほどと赴くことになった。
現地に到着し、ゲートをくぐると、そこは屋台と人混みでごった返す、熱気ある空間で、単純な私は浮き足立ってしまった。お肉やらジュースやら、色々と買ってもらってしまった上、チケット代金も当然のことながら私の分は必要なかった。ふわふわした気持ちでシートに座ると、前方にあるシートのほとんどが野球関連の雑誌や新聞の席で、マウンドは目の前だった。
しかし私は、ハマるチャンスがありながら、野球、特にプロ野球に関して意識が向かなかった。おそらく、子供の頃に父がチャンネル権を握っており、野球をみることがなかったからではないかと思う。ルールが分からない、用語が分からない、チームが分からない、選手が分からない、のないない尽くしでは、それを超えるハードルは高い。また心のどこかで、熱心なプロ野球ファンの方々からは、無知で飛び込んでくる輩はあまり歓迎されないかも、というひどい偏見もあった。知らないくせに知ったかぶりで、ミーハー気分で、真剣勝負に割り込んで欲しくないと思われたらどうしようと、勝手にひとりで遠ざけていた。
なので、私は、推しが推してるチームを推す、という発想がすでに横入りのようで、「横浜DeNAベイスターズが好きです!」と大声で言いにくく、素敵な呟きのRTばかりしてしまうのだが、それでも夏から秋にかけて、喜んだり落ち込んだり、部屋で拍手したり声をあげてしまったり、笑ったり憤ったり、とても賑やかに過ごした。自分の作業画面、見たい配信画面のほかに、野球中継の画面を開いて、最初は選手の名前も顔も一致しなかった私が、いつしか「つつごーーーー!」「かじーーー!」などと叫んでいるのだ。私の知識は、某漫画から得た「ゲッツー」「申告敬遠」くらいだから、せめて応援歌くらいは覚えたいとサイト検索しているほどなのだ。
いつか、球場を見るために横浜に行きたい。観光もかねて散策してみたい。叶うならば、試合をこの目で見てみたい。グッズも欲しい。美味しそうなフードも食したい。
夢はふくらみ、憧れはつのり、数ヶ月に満たない私のプロ野球熱は、激しくはないが熾火が燻るように燃えている。あの日、あの夜、推しがマウンドから投げた1球が、はしゃいでいる実況の1番組が、自分の意思で最初から最後まで心の中で声援を送った1戦が、気づけば毎回の視聴になり、チームへの思い入れになり、日々の彩りになった。
まだまだ、私はひよっこファンだ。好きになって数日には、埼玉西武ライオンズのファンの先輩に、「スターマン可愛いですよね」と言ってみたら、ああ、たぬきねー」とにっこりされ、本気でしばらくスターマンがたぬきだと思い込んでいた馬鹿だ。「裕大のおかげ、ってなんだろう」と調べてみた無知だ。
けれど、きっとこの沼はあたたかい。これからもゆっくりと、噛み締めながら、自分がはじめて好きになったチームを応援していきたい。学んでいきたいと本心から思うのだ。