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不毛な爺さんの勘違い 病院編

こんにちは南仙台の父です。
今回は再び不毛で意味のない爺さんの話です。
昨年の今頃、私は病気闘病のため某病院に入院していました。
その時に起きた訳のわからない、爺さんの勘違いによって振り回された
話です。

昨年、私は免疫疾患の指定難病のため、その治療を行うことを目的に主
治医から入院するよう指示を受けました。
(ご安心ください、けっして暗い話にはなりませんので。)
1月はほぼ1ヶ月に渡って入院しておりました。
私の入院していた病棟が脳神経内科と脳神経外科を対象とした病棟であ
ったため、それはもう毎日が想像を超える日々となっていました。
その中で、特に極めつけだったのが私が入院してからだいぶ経ってから
入院して来た爺さんでした。
今回はその困った爺さんのお話をしたいと思います。

私は闘病ではありますが、治療自体が限られているので、状態を監視す
ることがほぼほぼの目的のようなものでした。
そのため、非常に元気であって、動き回ることもでき、あまり制限がな
いような生活を送っておりました。(食事なども含めてです。)
私が入院してから3週間ほどが経過してから、ある爺さんが入院して来
ました。
爺さんは見た感じは普通のどこにでもいるような爺さんでした。
ただし、頭の中以外はでした・・・。

爺さんも別の免疫疾患の症状があって入院したようで、基本的な治療の
対応は私が受けた治療とほぼ同じ治療でした。
そのため、私は一つ一つの治療で何が起きるかもわかっており、どのよ
うな状況が発生してしまうかもわかっています。
ただ、爺さんとは同じ病室の中に居るというだけで、世代も違うことも
あって会話は全くしませんでした。
しかし、この爺さんがとんでもない爺さんだったのでした。

免疫疾患の場合には免疫グロブリン製剤の注射(点滴)を行います。
これは連続して5日間に渡って行われ、半日程度の時間が潰れてしまう
こともあり、まあまあ大変な治療です。
しかし、この治療はすぐには結果が出ず、2週間後にやっと結果が出て
来るという特徴もあって、時々製剤の副反応が出る人もあります。
(私は特に何もなく、副反応も全くありませんでした。)
入院して初日、爺さんは医師団から説明を受けていますが、入院前に
説明された内容については全く覚えていなかったようで、改めて医師
から説明をしていますが真面目に聞いていない様子でした。
医師はこれからの治療内容と副反応及びその対処などをしっかりと説
明していました。
(この説明は私が受けた説明の数万倍は丁寧に説明されていました。)

この爺さんは治療が始まる前からかなり怪しい挙動を見せていました
が、いざ治療が始まってみるとそれはもう素晴らしい挙動になってい
ったのでした。
治療の初日に看護師さんが来てセットしてくれますが、かなり時間が
かかること、もし変わったことがあったらすぐにナースコールするよ
うに説明してセットしていきました。
まあこの時点ではブツブツと文句は言っていますが、おとなしく点滴
を受けていました。
長時間の点滴を終えた後に、夕方の医師の回診がありました。
「〇〇さん、どうですか?」医師が爺さんに尋ねます。
「ん、何だか力が湧いてきたみたいな感じがするんだよ、この点滴は
効くんだな!」爺さんが膝の屈伸をしながら、それはもうデカい声で
話します。
(んな訳ねえだろ、5日連続でやって効果が出て来るのに2週間もかか
るんだぞ、ある訳ねえだろ!)
それでも医師は否定はせず、「そういうこともあるんですね・・・。」
と穏やかに言ってやり過ごそうとしています。
もし、初日で効果が出て来たら、それはもう医学会を揺るがす大事件
になりますからね。
こうして毎日の点滴が始まって、3日目の点滴が終わった後の夜の話
です。(ちなみに、爺さんは毎日力が漲ると強弁していました。)
夕食後の検温に看護師さんが来た時に爺さんがこんな話をしました。
「あのよぅ、ここ見てくれよ・・・。 スゲー痒いんだよ・・・。」
(あ、副反応が出たんだな・・・、力が湧くとか漲るとか訳わかんな
いこと言ってるから祟りにあったんだろ!)
看護師さんはとりあえず応急処置として痒み止めを塗り、その後医師
の判断で痒みを抑える薬を処方されていました。

次の朝、看護師さんが朝の検温にやって来ました。
「あのよぅ、これ見てくれよ! 痒いだけじゃなくて血だらけになっ
てるんだぞ!」
看護師さんは一応医師に連絡はしますが、皮膚の炎症は脳神経内科の
専門じゃありません。
一応、皮膚科にも相談するが、今は痒み止め処方しかないと爺さんに
は説明していましたが、爺さんは納得できないみたいでした。
「これじゃよぅ、夜も寝られねぇじゃないか!」
(嘘つけ、そこら中に響き渡るいびきをかいてたのはどこのどいつだ!)
その後も皮膚の炎症は引きませんが、治療を途中で止めることはでき
ないようで、とにかく我慢してくださいのお願いで医師は平身低頭の
状態でした。
この爺さんは病室に来る人すべてに自分の炎症を見せて文句をつけて
おりました。
薬剤師さん、理学療法士さん、看護師長さん・・・。
看護師長さんには無理やり背中に痒み止めを塗らせていました。
この爺さんは誰彼構わず文句を言うので、巡回販売に来るローソンの
店員さんやヤクルトレディーにも炎症を見せて文句を言っていました。
(この頃には炎症の箇所はかなり拡がっていて、それこそ延焼でした。)

この爺さんの恐ろしいのはこれだけではありません。
突然夜中に起きてリンゴを食べ出したり、寝る前に歯を磨いたはずな
のに夜中に牛乳を飲んでました・・・。
そして、爺さん本領発揮です。

①ローソンの巡回販売での出来事
 平日の午前中にローソンの店員さんが巡回販売に病棟へやって来ま
 す。これを楽しみにしている患者も多くいます。
 そんな中での会話です。
 爺「おい、牛乳はないのか?」
 店「飲みきりサイズの牛乳ですか?」
 爺「馬鹿ヤロウ! 1リットルのでかいやつに決まってるだろ!」
 店「でも、大きいパックは飲み切れないから無理ですよ。」
 爺「馬鹿ヤロウ! 俺はすぐに飲んじまうからいいんだよ!」
 次の日から爺さんのために1リットルパックを売りに来たのは言うま
 でもありません。
 爺「そういえばよぉ、何か砂糖が入ってない飲み物はねえのか?」
 店「お茶とか、水とかありますよ。」
 爺「馬鹿ヤロウ! そういうやつじゃねえよ。」
 店「あとはコーヒーとかジュースとか、砂糖が入っている飲み物し
   かないですね。」
 爺「そこにサイダーがあるだろ、砂糖入ってないのあるじゃないか!」
 店「サイダーですか・・・、砂糖入ってますけどいいんですか?」
 爺「サイダーに砂糖なんかはいってるわけねえだろ!」
 このやり取り聞いて私は笑い死にするかと思いました。

②セメダインで治す!
 爺さんは何でも人のせいにする癖があるようでした。
 炎症が拡がって延焼する中で、どうしても掻いてしまうので、血だら
 けになってしまいます。
 血だらけになったところを絆創膏で看護師さんに処置してもらってい
 ましたが、どんどん拡がるので間に合わなくなります。
 そこで爺さんがある方法で対処しようとしたのでした。
 看「〇〇さん、血だらけになったところを見せて!」
 爺「もう間に合わねえからさ、俺がセメダインで治したよ!」
 看「えっ、セメダイン? そんなもの使っちゃダメでしょ!」
 爺「これがよぉ、一番いいんだよ!」
 看「ちょっと、見せて・・・。」
 (セメダインって例のやつですか? ガンプラとかで使う。)
 看「なんだ、液状絆創膏じゃないの、安心した!」
 爺「何言ってんだ、セメダインじゃねえか!」
 看「これなら病棟にもあるから欲しかったら言ってね!」
 爺「わかったか、セメダインだぞ!」
 (すげー勘違いじゃねえか・・・。 爺さん、ずっとセメダインだと
  思ってたんだ・・・。)

こんな感じなので、いよいよ大変なことが起きてしまいました。
5日の点滴治療が何とか終わり、炎症が延焼する中で痒みは収まらず、
更に酷い状況になっていました。
朝の検温の時間に看護師さんがやって来ました。
看「どうですか、〇〇さん。」
爺「あのよぅ、誰かが夜中に俺の所に来て、掻いてるみたいなんだよ!
  誰がやってるかわかんねえけど、とんでもねえ奴だな!」
看「そんなことある訳ないでしょ。 自分で掻いたんでしょ!」
爺「そんなことねえよ! 俺がなんで自分で掻くんだよ!」
看「だって、痒いから掻いちゃったんでしょ?」
爺「絶対に誰か夜中に俺の所に来て掻いてるに決まってるだろ!」
(はぁ、ひょっとして俺を疑ってるのか。 だいたい誰がすき好んで
 爺さんの体なんか掻きに行くんだよ!)
このやり取りが数日に渡って続き、医師や看護師だけでなく、ローソ
ンの店員さんやヤクルトレディーにも疑念を伝えていました。
(誰も信じはしていませんが、真っ向から否定もしませんでした。)

そしてある日の朝の検温のことでした。
爺「あのよぅ、どうもよぅ、俺が掻いてたみたいなんだよ!」
看「だから言ったでしょ、勘違いだって!」
爺「俺がさぁ、自分で掻いちゃってるのを見ちゃったんだよ。」
看「普通はそうでしょ、自分が痒いんだから!」
爺「手加減しないで血だらけになってたからさぁ、てっきり誰かが来
  て勝手に掻いてるとおもったんだよな!」
看「じゃ、血だらけになった所、絆創膏を貼っとくね。」
爺「馬鹿ヤロウ、セメダインにしろ!」
(爺さん、結局「液状絆創膏」ってインプットできなかったんだ。)

こうして不毛な爺さんの勘違いは解決したのでした。
この爺さん、決して認知症とかではありませんよ。
いや、ちょっと天然系の素材なだけです。
私が退院するまで、セメダイン(液状絆創膏)を貼ってもらっていま
した。
私は退院できた時に心の底から安堵したのは言うまでもありません。

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