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『ミュータンス・ミュータント』百景episode3…「わたしの綿菓子」

「また、ポッキー?」
西野は阿部に向かい、ニヤリとしてみせた。

「うん。毎朝、駅前のコンビニで買うからね。もう日課みたいになっちゃって、店員さんにも顔馴染みになってる」
阿部は穏やかに笑った。

「たぶん、『ポッキーのお姉ちゃん』とか、陰で呼ばれてるよ」
西野は声をひそめた。 

かつての活気に満ちた編集部のオフィスでは、そこかしこで仕事や私語の会話が繰り広げられていたが、不況の煽りを受けて最近の業務は縮小気味である。必然的にオフィスでの会話も少なく、何気ない言葉も皆にこだまする雰囲気だ。

「全然、平気。大学生の時、私のこと、〝ポッ子〟なんて呼ぶ子もいたし。あの、先からポリポリ噛み砕いていく感じ、私の前世はハムスターだったのかも、なんて時々感じるしね」
そう言いつつ、阿部はポッキーをポリポリと齧った。 

「そっかー。ところでさ、ポッキー毎日買うんだったら、まとめて買いだめした方が楽じゃない?」
西野は、ふと疑問を口にした。私だったら、毎日コンビニに行くこと自体がちょっとめんどくさいかな…。

阿部はすかさず答えた。
「一番日付が新しい商品を買いたいからね。やっぱり、お菓子も鮮度が大切かな、と思うの。ほら、これ。今朝買ったポッキー。ピチピチしてるでしょ?」
阿部は手にしたポッキーを、プルプルと振るわせてみせた。

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