昭和の青い鳥②


アオイが田中の雑貨屋で働き始めて数日が経った。慣れない環境にもかかわらず、田中の親切な指導のおかげで、彼女は少しずつ仕事に慣れてきた。雑貨屋で扱う商品はどれも昭和の匂いが漂うもので、アオイにとっては夢のような場所だった。

ある日の昼下がり、田中が「少し休憩してきなさい」と勧めてくれたので、アオイは商店街を少し歩いてみることにした。商店街は、昭和の街並みが色濃く残り、アオイにとってすべてが新鮮だった。彼女の心は、まるでタイムスリップしたばかりの時のように高揚していた。

「ここで一生過ごせるかもしれない…」と、ふとアオイは思ったが、すぐにその考えを打ち消した。まだ元の時代に戻る方法を見つけなければならないのだ。しかし、今だけはこの昭和の世界を満喫しようと決めた。

そんなことを考えながら歩いていると、目の前に「レコード店」と書かれた看板が目に飛び込んできた。アオイの心臓が一瞬跳ね上がる。彼女の大好きな昭和の音楽が、ここにあるかもしれないという期待感が胸を高鳴らせた。

「まさか…」と思いつつ、アオイは自然と足が店へと向かっていた。店の外観は古びているが、それがまた時代の雰囲気を醸し出していた。扉を開けると、店内にはレコードがずらりと並んでおり、ほんのりと漂う古いレコード特有の匂いが、彼女の鼻をくすぐった。

「すごい…!」アオイは目を輝かせながら、棚に並ぶレコードを手に取っては、じっくりと眺めた。ピンクレディーやキャンディーズ、山口百恵など、彼女が憧れていたアーティストのレコードが揃っていた。現代では簡単に手に入らないレコードが、ここでは当たり前のように置かれている。

「ここにいる間に、もっと昭和の音楽を知りたい…」そう心の中でつぶやきながら、アオイは店内を隅々まで見て回った。どのレコードも彼女にとっては宝物のように見え、時間が経つのも忘れるほど夢中になっていた。

しかし、休憩時間も限られていることを思い出し、アオイは名残惜しそうにレコードを棚に戻した。「また来よう…」と心に誓いながら、店を後にした。

雑貨屋に戻る道すがら、アオイの胸はまだ興奮でドキドキしていた。まるで自分が昭和の人間になったかのような感覚に包まれ、彼女は自然と微笑んでいた。レコード店での体験が、彼女の心に深く刻まれた。

店に戻ると、田中が店のカウンターで静かに作業をしていた。アオイが戻ってくると、彼は顔を上げて優しく微笑んだ。「どうだった?商店街は楽しめたかい?」

「はい!すごく素敵なレコード店を見つけたんです!」アオイは興奮した様子で話した。田中はアオイの様子を見て、微笑みながら頷いた。

「そうか、それはよかった。レコードが好きなんだね。いつでも休憩中に行っていいんだよ。この街には、君の好きそうなものがたくさんあるからね。」

田中の言葉にアオイは心から感謝した。この昭和の世界で、少しずつ日常を築き始めている自分を感じ、彼女はこの場所での生活に少しずつ慣れつつあった。そして、元の時代に戻ることができるその日まで、この街でできることを楽しもうと心に決めた。

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