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母〜10

 マスオさん状態で妻の養父母と同居をしていた父。そのまま、養母の開業していた医院を引き継ぐ、という選択肢もあったと思うし、結婚の際話題にものぼっていたと思われるのだが、別の場所で医院を開業するという道を選んだ。なぜだったのだろう?喧嘩でもしたのだろうか、と、ずっと不思議に思っていたが、その理由はずっとずっとのち、母の四十九日の法事の際に、親戚から聞くこととなる。父の実家は栃木県栃木市であり、父以外のきょうだいはほとんど栃木に住んでいた。東京の杉並なんて、そんな遠くで開業されたら困る。栃木市で開業してくれれば一番良いが、せめてもう少し近くにいて欲しい、と要望があったようなのだ。父の長兄が栃木市で既に開業していたのに、随分な言いようだ。夫のきょうだいを見ていてもわかるが、人間、身内から医師が出ると、とことんあてにして頼りたいもののようだ。母にしてみれば、養父母との板挟みでいたたまれなかったのだろう、と、同情していたが、これもずっとのちに、母が他界してから母の友人に聞かされたことだが、母は養父母のもとを離れられてほっとしていたようなのだ。
 新しい医院の、開業候補地探しが始まった。

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