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第80回「地理総合と歴史総合の接合」(「歴史総合」研究チーム)

記念すべき第80回の研究会は、大学院で社会科教育を学んでおられる大学院生の方から、県立高校での実習で行った歴史総合と地理総合の授業実践についてご発いただきました。
 今回の発表テーマは「地理総合と歴史総合の接合」です。

1.「地理総合と歴史総合の接合」の出発点
〇 問題意識

 日本地理学会地理教育専門委員会で2021年に行われたアンケート結果によると、歴史を専門とする教員と比べて地理を専門とする教員の数は少なく、地理を専門外とする教員が地理を担当することも少なくない。
 高等学校の社会科は「地理歴史科」「公民科」に分けられ、教員免許状取得の際に「地理歴史」「公民」といったカテゴリーが意識されるようになり、教職に就く者の中に「専門化した教科アイデンティティ」が創出されてきた。その一方で、現場では教員の配置や「世界史」の必修化などが絡みながら、「社会科」としての枠組みを意識せざるを得ない状況に直面していき、かえって教師が専門性を発揮しがたくなるという状況も生まれてきた。
 
 つまり、多くの高校社会系教科の教師は専門化した教科アイデンティティを持つ一方で、実際には専門外の教科を担当しなければならない状況に置かれている。そのような状況の中で、多くの教員は「まずは専門外の教科内容をすべて網羅しなければならない」といった具合に、たとえ専門外であってもあくまで「その教科が専門である」といえる状態を理想として教科内容について学ぼうとする。しかし、それでは疲労困憊してしまうのではないか。

 このような現場の教員の状況に対して、経済学者であり社会学者の高島善哉が、以下のような考え方を示している。

「いわゆる社会科専門の先生は僕は出来ないと思うのです。 社会科の先生というものは社会科学の中で何か一つの経済学,歴史学というように専門を持って、その専門の立場を中心にして研究もし、児童を指導するほかの途がない。社会科そのものというのはあり得ない。そうでないとさんまんなものになってしまって効果がないと思う。…そうでなくて社会科学のめいめいの専門において社会科を体験し得る者を-研究者を作ろう、教育に熱心な人を送り出せば社会科の先生ができるのではないかと考えているのです。」
『ディスカッション 社会科教育』上巻p152

 
 現場の教員は、社会科を教えるためには、社会科の授業内容を全面的にカバーする「社会学的な学問」を学ぶことが必要と捉えているが、高島は、社会科の教師は社会科学のうち一つの個別科学を専門として研究するしかなく、そのことによって社会科の教師となっていくという考えを示している。

〇 学習指導要領にみられる「地理総合」と「歴史総合」の接続
 高等学校学習指導要領地理歴史編にある以下の文言から、地理総合と歴史総合の接続が求められていると読み取れる。

「『地理総合』については,『歴史総合』と相互補完的な役割を果たしながら地理歴史科の目標を達成し,『学びの地図』の一端を担うため…」

「『歴史総合』については,『地理総合』と相互補完的な役割を果たしながら地理歴史科の目標を達成し,『学びの地図』の一端を担うため…」

以上をまとめると
・    学習指導要領で地理歴史の接続が求められている。
・    社会科学者からの指摘によると、専門外の授業を受け持つことになった場合、自身の専攻する学問の視点を入れて教えることが、教授内容を社会科たらしめることになり、社会の丁寧な観察者を育成することにつながる。

2.地理総合と歴史総合を接合させた授業実践の内容
 実習は県内の公立高校で4週間実施した。歴史総合の「明治維新と日本の立憲体制」、地理総合の「生活文化の多様性と国際理解『東アジアの経済成長とその歩み』」の単元を、「中華思想」を接合点として扱い、日本と中国におけるエスノセントリズム(自民族中心主義)を時間軸・空間軸の両軸で理解していく授業を行った。

【歴総】独自の文化を持っていた、琉球・アイヌの人々はどのように「日本人」になったのだろう?(琉球・アイヌに対する同化政策や、琉球・アイヌにとっての日本の国民国家形成の課題)
【地総】中華思想を背景とする中国の経済発展と先富論、中華民族統一と民族間格差、ウイグルの人権問題
【地総】中国による南シナ海への進出や尖閣問題の背景・要因(中華思想・米国との関係・海上交易・国内の不満をそらす)
【歴総】琉球処分を日本と清はそれぞれどのように捉えていたのだろう?

3.授業実践の成果と課題
〇 成果
・歴史と地理の内容はつながっているという生徒の割合が増えた
・地理総合・歴史総合ともに、学習内容が自身の生活とつながっていると感じる生徒の割合が増えた
・地理や歴史を学ぶ意義について、「現代社会の仕組みを理解するため」や「教訓を学ぶため」と考える生徒の割合が増えた。一方で、「受験のため」と考える生徒の割合は減った。
〇 課題
中国=悪というイメージを強化してしまった。一方で、中国国内の差別と同様の構造が近代日本にもあったことに気づいた生徒もいた。

以下、質問・議論の内容です。議題は、
・先生方は,どのような社会科観をもって授業をされていますか?
・専門外(?)の授業を持たれたことはありますか

Q.授業後のアンケート結果は4~6週間での結果ですか?
A.そう。

Q.高島善哉の話に関連して、専門外の教科の内容は勉強しなくていいの?
A.内容も大事だけど、それよりも方法を重視するべき。仮説を立てて、批判に耐えられるものにしていくという専門分野における研究手法を大事にするべき。

Q.高島善哉とはどんな人?
A.経済学者、社会学者。初期社会科の頃の学者。

Q.①そもそも歴史総合自体が時間軸・空間軸の往還の科目だが、そこに地理総合を接続させたのはなぜか?また、接続させることで何を教えたかったのか?②さらに、生徒が「つながっている」と感じた理由が見えないので教えてほしい。
A.①一つは、そのように指導要領に書いてあるから。もう一つは、現代的な諸課題がなかなか解決できていないということが地理総合からわかるから。
②マイノリティという概念を各授業で強調したので、それでつながったと感じたのではないか。

・    歴史専門だけど公共が楽しい・・・子供たちがどういう活動しているのか、どんなことを考えているのか。現代の問題を考えられるような教科が社会科ではないか。
 
・    どのような目標論をもてるのか。なぜ接合させる必要があるのだろうか。単体でも市民性や現代的な諸課題を考えるが、そのうえでなぜ接合するのか。地理総合・歴史総合単体だけでは到達できない目標とは何か。
 
・    未来教育、未来の可能性の幅をとらえられるようになるのが社会科。起こりうる未来。最後の「持続可能」の部分はつなげられそう。
 
・社会とつながるような、(グローバル~ローカルの)社会で生きるような市民性の育成。→学習内容と社会とのつながりを感じることができる授業にすることで、生徒が社会参画する態度を伸ばせるのでは。
・    ステレオタイプではなく、社会を丁寧に見る目を養うのが社会科ではないか。
・    分野固有性に根差した汎用性を育成するべき。

・    大学院の先生の実習・・・一緒に研究してくれる現場の先生が貴重。
 
・    接合することでどんなプラスがあるのかを論文などで論じてほしい

参加者 22名

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