ピクニック

家賃保証会社から何度も着信。無視してたらメールを飛ばしてくる。「本日がご対応の期日となります」
ご対応?期日?俺は「家賃払います」なんてひと言も言っていない。
ほら、またスマホが震えた。
今度は何だ?
お金を借りている闇⚪︎の社長からのメールだった。
「明日ピクニック行こう」

朝7時に社長がアパートに来た。
「これ重いから持って」とどデカいリュックサックを差し出した。
「重たッ!」(何が入ってんの!?)

「いい場所があるから」と言われ山の麓まで歩いた。無職の肉体はクソ雑魚。1日が始まったばかりだというのに両肩が逝きそうだ。
無職だけが千切れそうな肩と澄んだ空気を使ってハァハァと呼吸しながら更に山を登る。
すっかりひと気は無くなり不安への細い一本道となった。やっぱりこの間「今月厳しいんで返済少し待ってもらえませんか?」とメール相談したのがダメだったのか。生き埋めは嫌だな。死に埋めにしてほしい。

寂しい一本道



頭上を覆っていた木々が徐々に背を低くして突然周囲が明るくなった。
「いい所だろ?」
「ハァハァ… 凄く… ハァ… 」
社長は「準備するから休んどいていいよ」と言うと俺がドスンと下ろしたリュックからキャンプ用の折り畳み椅子を取り出し慣れた手付きで組み立てる。あとミニテーブル、敷物、缶ビール、缶チューハイ、ウイスキー、炭酸、水、氷、ご飯、つまみ、山にまつわるetc… 重い筈だ。

ビールで乾杯をして「どうして俺を誘ってくれたんですか?」と訊いてみた。
「何か周波数が合うから。ねぇ、プラーナ見える?」
「俺、飛蚊症なんで黒い虫しか見えないです」
「その向こうを見るんだよ」
その向こう側を見ようとしたら眩しくて目が痛くなり涙が出てきた。無職は目もクソ雑魚。
「何泣いてんの?」
「目が痛くて」
「じゃあいいけど。悲しくて泣くヤツ嫌いなんだよ。アレは自分が可哀想で泣いてるだけだから」

闇⚪︎と無職の乾杯ビール


すぐ近くに幾つかのベンチと綺麗なトイレもある。時間の経過と共にウォーキングをする老人もチラホラ。
用を足して戻ってきた社長が言った。「なぁ、後ろに座ってるカップル、男が女の乳揉んでた」
「開放的ですね」
「地球上の生物のアミノ酸って全部左巻きなんだよ。水道の蛇口とか螺子とか緩める側、開放する側って全部左回し。ウイスキー(ロック)も左に回してみ。普段よりも美味くなるから」
「BARやってたけど全力で右に回してました。色々と詳しいんですね」
「頭いいから。算数は苦手だけど」
「数字苦手なのに金融やってるんですね… 」
「うん」

いつしか水着になっていた社長が言った。「心の病、良くなってる?」
「まぁお陰様で多少は… 山なのに水着なんですね」
「悪い?」社長は無職の雑魚肉体とは対象的なその身体にサンオイルを塗布しながら続けた。
「労働で病んでその労働を辞めても治らないなら原因は労働じゃない。単純に自分への見積りが甘い。もっと自分と対話しろ」

帰り、無くなった酒と炭酸と水、陽に溶けた氷、あと社長との会話で俺が背負うリュックは軽くなっていた。
アパート前で別れ際、社長が振り返って言った。
「おい。また借りに来いよ」


P.S.
急にフォロワー様が10人くらい増えて驚いています。
早速サポートをくださった新規フォロワー様、本当にありがとうございます。
他の皆様もご遠慮なくどうぞ。
今回ピクニックへ誘ってくれた社長への返済、あわよくば滞納している家賃の支払いもできたら最高です。

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