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海外と国内で機関投資家は何が違う?

一概に機関投資家と言いますが、機関投資家にも様々なタイプの機関投資家がいます。

日系の機関投資家は大手金融機関の子会社であることが多いため、名前を聞くと馴染みのある金融機関の系列であることがわかる事が多いと思いますが、外資系や日本に拠点のない運用機関となると名前を聞いただけではよく分からないことが多いのではないでしょうか。

海外の運用機関は伝統的な運用機関から新興の運用機関、ヘッジファンドなど様々ですが、今回は歴史のある伝統的な運用機関の特徴と日本の運用機関を比較してみたいと思います。


欧州の運用会社はスイスのプライベートバンクなどがその起源とされていますので、1600年代にまで遡ります。フランスでナントの勅令によるプロテスタントの容認と、その後のナントの勅令の廃止によって、財産が没収されたりした経験から、貴族たちが金品や不動産を奪われないようにするために、資産を預け、子孫の代まで守ってもらおうとしました。イギリスでも同じくらい長い歴史があります。ヨーロッパは戦争などによって美術品などは略奪などもありましたが、中立国にあるプライベートバンクの存在によって資産を継承し、伝統的な富裕層が残ってきました。そもそも地政学的なリスクから資産を護るという目的で利用されている事もあり、地域分散などにも積極的です。シンガポールや香港にあるファミリ―オフィスもそもそも自国の市場が小さいこともあり、地域分散には積極的です。

彼らは資産運用自体で大きく儲けようというよりは、安全な国、安全な資産運用会社を選び、適切な資産運用を行う事で、今ある資産を護り育てようという発想が強いといえます。

一方、日本の資産運用会社は大手金融機関が収益拡大を目指した派生ビジネスとして設立しました。そのため、お金を預けている顧客のニーズは様々で、特定の顧客のニーズに合わせるというよりもとにかく良い運用・高度な運用を目指す傾向にあります。

海外の運用会社と日本の運用会社では設立の起源が異なるために根本的なところで様々な違いが出ています。

対象としている顧客から来る運用の違い


運用会社として成長してくることで、顧客層が広がるとあまり差がない様になってきますが、海外の資産運用会社が特定の王侯貴族や大富豪のニーズに応えることから始まったのに対して、日本は金融機関の子会社ですから、設立当初から顧客層が広く幅広いニーズに応える必要がありました。

そのため、海外の運用会社は特定のニーズに特化した形で特徴のある運用になりがちなのに対して、日本の運用機関は概ね横並びで特徴のない運用になりがちです。
 

運用の目的


このように設立当初に対象とした顧客が異なる事から、当初の運用目的も異なります。

海外の運用会社は資金のリスク許容度の範囲内で運用資産を極大化する事を目指す傾向にある対して、日本の運用会社は同業他社比で相対的に優れたリターンを獲得する事を目指す傾向にあります

つまり、海外の運用会社は絶対リターンを確保するという思想が最初にあり、その最適なやり方としてベンチマークをアウトパフォームするという考え方が出て来たのに対して、日本はベンチマークという考え方が出て来る前からどちらかというと同業他社に負けないという意識が強く、ベンチマークという考え方が普及してからは一気にその方向に向かいました。
 

運用哲学


そのため、運用哲学には差が出やすくなります。海外で歴史のある運用機関は元々の彼らの資金属性にあった運用と、その成功体験から作られているため、その考え方が機能しない相場が続いても、運用哲学自体が揺らぐことはありません。運用哲学は運用の詳細を説明するものではありませんが、内容は比較的具体的なものになる傾向にあります。

日本の運用会社の場合、特定の運用ニーズに応えたものではない事や、ファンドの種類も多いことから運用哲学も比較的抽象的で何にでも当てはまるようなものになりがちです。そもそも、運用哲学があって運用をし始めたという事ではなく、よい運用会社は良い運用哲学があるという事を学んで作ったという面もあります。
 

業界ルール


欧米では業界ルールは、不祥事などがあった場合に徐々に整備されてきました。そのため、特に英国などでは規制当局というよりも運用会社自体が危機感を感じ、業界団体が自主的に作成して行きました。それに対して、日本は規制当局の旗振りで様々なルールが作られ内容が整備されていく傾向にあります。
 

なぜ日本にも独立系の運用会社が必要なのか


資産運用立国の議論の中で、独立系の運用会社を増やすことが望ましいという話があります。それには様々な理由がありますが、その理由の1つには多様な運用目的や投資哲学を持つ運用機関が参加する市場となる事で、市場に厚みが出ることもあります。類似した運用目的や投資哲学を持つ運用機関ばかりでは、判断が一方向に傾きやすく相場に厚みが出ないわけです。

一方、資産運用業を行うのに必要なコストは年々上昇しており、特にITの活用が不可欠になってくると規模の効果も大きくなります。日本の資産運用ビジネスは規模の拡大と多様性の確保という相反する課題を抱えていると感じます。

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