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「声優YouTuber」が実人気の新たな指標になりつつある現実

 2020年は「声優YouTuber」が急増した。特に4月の緊急事態宣言発令に伴う「おうち時間」が増えた頃にこぞってYouTubeをやり始めている。

 4月以降の新規参入者は「個人チャンネル」と「事務所チャンネル」に分けられるが、今回は後者を取り上げる。声優事務所が法人名義でYouTubeチャンネルを開設し、所属声優が個人で撮影・編集した動画を自主的にUPする方式である。他にも公式が制作したニコ生配信などのアーカイブも存在するのだが、それも除外し、あくまで個人で自由に発信した動画に絞り考察する。

 演者自ら企画・撮影・編集することで、その人の嗜好や個性・センスが垣間見えるので実に興味深い。故に、内容が面白かったり実用性の高い動画、あるいは編集のクオリティーが高い動画を作ればその分視聴回数も付いてくる……というわけでもない。あくまで個人の見解だが、声優の実人気が視聴回数に大きな影響を与えているように思う。

1.8本で65万再生、30本でやっと5万再生……表面化される実人気

 まずは「ぷろだくしょんバオバブ」「アイムエンタープライズ」「セカンドショット」「アーツビジョン」の4事務所のチャンネルから女性声優11人を抽出し、個人制作の動画本数と総視聴回数の表と散布図をご覧いただきたい。

声優
グラフ

 散布図は横軸が動画本数縦軸が総視聴回数となっている。本渡楓は総視聴回数の数値が異次元過ぎて、彼女の点を入れると10万以下の人々が団子状態に見えてしまうので、全体を見やすくする為にも除外せざるを得なかった。

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 その本渡は僅か8本で65万回再生という偉業を成し遂げている。確かに内容は苔テラリウム作成やオウム返しするぬいぐるみを紹介するなどオリジナリティーかつセンスに満ち溢れたものだが、だとしても1動画あたり平均8万2000再生というのは私が動画のセンスと編集技術を高く評価しているTrySailの夏川椎菜(417Pちゃんねる/平均6万1000再生)をも上回る異常値であり、ある程度の実人気が付いていないと到達不可能な数字なのだ。

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 その一方で3ヶ月ちょっとで30本もの動画を投稿した本宮佳奈という努力家も存在する。YouTubeの為にPCやビデオキャプチャーなど機材一式を購入し、編集技術も回を重ねる毎に向上、動画UP後も自身のTwitterで自己リツイートをしてまで繰り返し宣伝するなど、気合の入れ方はこの中で一番と言っても良いが、総視聴回数は10本の高橋花林をも下回り、3本しか無い赤尾ひかるとの差が僅か6600という悲しい現実となっている。本宮はTwitterフォロワー数こそ3.4万人と多い部類に入るのだが、代表作が『けものフレンズ』と『温泉むすめ』くらいしか無く(しかも前者は昨年卒業している)、これまで不明瞭だったファンの数がYouTubeを始めたことで炙り出されてしまったとも言える。

2.動画投稿を続けられる人、続かない人、それぞれの理由

 前述の表には月別の動画本数も記載している。あくまで女性限定で抽出した11人の場合だが、緊急事態宣言発令中の5月に本数がピークを迎えている。5月下旬に解除され、アフレコやラジオ、ニコ生など声優としての仕事が少しずつ再開された6月以降、約半数の5人が動画を投稿しなくなった。7月に入っても継続しているのは本宮とLynnのみである。ただでさえ慣れていないと編集に多大な時間を費やすYouTuberを声優仕事と両立させるのは難しい(ボイストレーニングや体力作り、アルバイトなどもしているなら尚更)ということである。逆に更新頻度を維持し続けている本宮は、そもそもコロナ禍になる前から声優仕事がそんなに多く無かったということにもなってしまう。社会現象になった『けもフレ』の声優が、昨年は舞台で主演まで務め上げた声優が、たった1年で……どうしてこうなった。


3.努力が必ずしも報われない厳しい世界

 声優に限らず芸能人全般に言えるが、YouTuberになることはあまりお勧めしない。このように実人気が垣間見えてしまう博打のようなものだからである。自分で編集もしていないのにチャンネル登録者数が1万、10万と平気で超えてくる数多の人気者の陰で、本宮のような報われない努力家もやはり多く存在する。彼女たちの為に努力が何らかの数字に結び付くシステムを作れないものか。

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