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『水曜日のダウンタウン』クロちゃん恋愛企画の感想

※ネタバレがありますので、内容が気になる方はTVerでご覧下さい
(12/28まで全話無料配信)。


『水曜日のダウンタウン』MONSTER LOVE(モンスターラブ)が最終回を迎えた。もうTwitterやネットニュースで話題になっているのでお分かりだとは思うが、クロちゃんがリチと付き合うことになった。クロちゃんにとっては2017年の「フューチャークロちゃん」を始め、当番組で3回もの恋愛企画を経て(ダイエット企画なども含めれば4回以上)今回ようやく実を結ぶという「積み重ねの感動(?)」があった。幾度もの失敗があったからこそ最後の成功が感動になる展開は『あいのり』のヒデを思い出す。

 こんなことってあるんだなあ、というのが率直な感想である。

1.ルールの確認

 モンスターラブは、クロちゃんに本気で好意を抱いているという9人の女性とクロちゃんが、沖縄での共同生活やデートなどを通して毎回1人ずつ脱落、最終的に1人に絞り、告白するという半ば『バチェラー』っぽい企画である。ただし、9人の中には「クロちゃんを好きなフリ」をしている偽物も混ざっており、それを見抜けるか否かがポイントになる。

 また、企画の途中で「偽物が全員アイドル志望」であることも明かされ、最後に残った3人で本当にアイドルグループ「都内某所」を結成、メジャーデビューを果たす。

 このようにアイドルオーディションも兼ねている関係上ほとんどが偽物で、クロちゃんの事を本当に好きな女性はリチとリサの2人のみだった。リサは#3で脱落したが、リチは最後の3人に残り、実は「昔からアイドルは私の憧れ」だったこともあり、一時は都内某所のメンバーにもなった(サムネの真ん中)。しかし「アイドルと恋愛はしない」というドルオタ・クロちゃんのスタンスを受け入れ、年内で早くも脱退することが決まっている。

2.リチの気持ちを振り返る

 このように企画としてはギミックが斬新で面白いのだが、どうせ最後はクロちゃんがフラれるのだろうとずっと思っていたからこそラストは衝撃だった。

 もちろんリチがクロちゃんの事を本気で好きだからこそ成立した企画でもある。番組で募集をかけたとはいえ、こんなに若くて可愛い女性があの男を本気で好きだというのは表面的に見れば半ば信じがたいことではあるが、それを分かった上で#1から見直すと色々な発見がある。

 まず、リチは過去に恋愛で苦労してきたことが明かされている。

リチ「私は基本的に自分から好きになった人に自分からアピールして、告白して付き合うっていうパターンがほとんどだったんだけど、彼女が何人も居るとかそういう人でも『こっちが好きだからいいや』と思って付き合っちゃう」

クロ「それ知った上で付き合うってこと?」

リチ「うん。遊んでいそうだなって人でも自分は好きになったし、一緒に居られる時間があるなら……」

ナル「好きだから許す?」

リチ「そう、好きだから」

ナル「しょうがないみたいな」

クロ「えっ、けどそれって幸せになれなくない?」

リチ「でも自分ではそれが幸せだと思って今までやってきた」

#2より

 これを聞いたクロちゃんは「都合のいい女」と思ってしまうが、リチはクロちゃんとの出会いを経てその意識も変化していることを話した。

リチ「でも今までが……そういう、彼女いてもいいから好きな人と付き合いたいとか、そういう恋愛してきたけど、何かもう今回はホントにクロちゃんだけを見て、クロちゃんだけが好きで、私だけを好きになって欲しくて。だから今までみたいな恋愛はもうやめたい。だからもう都合のいい女とか思わないで欲しい」

#3より

 過去の恋愛では男性側が一途でなかった辛い経験を持つリチ。もしクロちゃんが彼女に対して一途になれるのであれば、リチにはむしろぴったりなのかもしれない。

 そして、極めつけは#6(最終話)でのLINE交換、毎日連絡を取るようになってからの最後のデートでの発言である。

リチ「ホントだからクロちゃんの事好きになったのもこの番組きっかけだから、もうホントに、クロちゃんが今目の前にいるのがずっと夢みたい。いつも思っているけど、今までクロちゃんが恋愛とかでドッキリとかかけられるのも何回も見てきたから、それを見る度に『私が幸せにしてあげたいな』って思って。

 だから今回、そのクロちゃんが幸せになれないようなドッキリを、私が終わらせに来た

#6(最終話)より

 最後の2人まで残ったミクが手作り弁当など「物」で勝負に出ていたのに対し(ミクは偽物だが、クロちゃんが自分に告白すればリチが都内某所に残留できると考え、最後まで誘惑し続けた)、リチは「言葉」で想いを伝えてきた印象を受ける。

 その言葉を受け取ったクロちゃんは、こんな想いを抱えてリチの元へ向かった。

クロ「どっちが本物でどっちが偽物なのかっていうそれをずっと考えていたけど、結局それで決めませんでした。だから最終的に僕がやっぱ一番好きだなと思う娘に告白して、それで告白した娘が僕の事を好きじゃない娘だったとしても、後悔はしません」

#6(最終話)より

 この部分は松本人志の言う通り良い考えだったと思う。登場人物それぞれの想いや行動の理由付けを番組内でしっかり説明できているから視聴者も感情移入しやすい。
 一見信じがたいリチとクロちゃんの結末は、双方が本気だからこその当然の帰結だったのかもしれない。

3.考察と感想

 この企画が100%ガチだとは思わないが、ある程度は本当なのだと思う。元々『水曜日のダウンタウン』はガチで検証し、どう転んでも様々な工夫で何とか放送できるものにしてきた過去を持つ。

 2019年「おぼん・こぼん解散ドッキリ」が物議を醸したが、そこで終わりにせず、2年後に「おぼん・こぼん THE FINAL」で仲直りに持っていったのが良い例である。

「予定調和をよしとせず、これまでバッドエンドであってもそれはそれとして放送してきた番組のスタンスが、今回の結末にパワーを加えたと思います」

「おぼん・こぼん THE FINAL」ギャラクシー賞受賞時の藤井健太郎氏のコメントより

 このように芸人をいじって終わりにせず、時には救済することもしてきた番組である。今回の場合、番組がリチという人材を見つけたことで、何とかクロちゃんと結ばせようと仕向けた可能性はある。クロちゃんも部分的に台本に沿った行動はあるかもしれないが、流石に全てのギミックを知っていたわけでは無いと思うので、ほとんどのリアクションがガチなのだろう。もちろんそれはリチにも言える。

 あるいは、ガチかどうかを考えないのであれば、バラエティーの枠を超えた一つの感動物語として受け入れられる。これが普通の恋愛リアリティショーであればそこまで感動できなかったかもしれないが、「あのクロちゃんが」という前提が入ることで驚かされるのである。結末に至る過程も丁寧に積み上げてきていた。それはモンスターラブ自体の構成もそうだが、フューチャークロちゃんから続く5年間の積み重ねでもある。だからこそ結末に超特大カタルシスを得る。創作の参考にしたいくらいである。

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