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短編小説「未来を紡ぐ投資」


 新幹線の窓から見える景色は、まるで人生の縮図のように流れていく。

山々を抜け、川を越え、やがて東京の高層ビル群が遠くに現れる。その車窓をぼんやりと眺めながら、田中翔太はため息をついた。

「幸せそうだったな…」

 口から自然と漏れた言葉は、翔太自身の胸をざわつかせた。

今日は高校時代の親友・森下亮介の結婚式だった。彼の真剣な表情と新婦の笑顔、会場にあふれる祝福の声。それらが彩る一日を過ごしながら、翔太はひたすら「いいな」と思っていた。

 亮介は、いわゆる勝ち組だ。大手メーカーに勤め、今年マイホームを購入。趣味の旅行も楽しみ、家庭を築いている。そんな亮介が、披露宴のスピーチで語った言葉が頭から離れない。

「この先どんな困難があっても、僕は妻と生まれてくる家族を守る覚悟です!」

 眩しかった。そう思う一方で、自分との差が胸をえぐった。翔太にはそんな覚悟を語る自信も土台もない。

 東京へ戻る新幹線の車内で、翔太はカバンからスマホを取り出し、SNSを開いた。インスタグラムやツイッターを眺めると、さらに心が重くなる。

「またか…」

 そこには、自分より若い世代が高級車や海外旅行、ブランド品を自慢げに投稿している動画や写真が並んでいる。

「人生楽しんでるぜ!」というキャプション付きの笑顔は、翔太にとって遠い世界の話に思えた。

 彼らがどうやってそれを手に入れたのか、翔太には想像もつかない。大企業のエリートなのか、それともYouTuberやインフルエンサーなのか。いずれにしても、自分には縁のない道だ。

「努力が足りないんだろうな、俺は…」

 呟いた後、翔太は即座にスマホを閉じた。胸の中に渦巻くイライラを、どう処理していいのか分からない。
 日々の生活に目を向けても、モヤモヤする気持ちは消えない。
 会社では、定時を過ぎても仕事が終わらず、飲み会に誘われても参加する余裕がない。電車通勤の中で耳にするのは、上司の愚痴や世間の景気の悪さの話ばかりだ。

 家に帰れば、テレビから流れるのは「老後の資金不足」や「物価上昇」のニュース。翔太は冷蔵庫から取り出した缶ビールを片手に、ソファに倒れ込むのが日課になっていた。

「このままで、俺の人生どうなるんだろうな…」

 テレビもBGM程度にしか聞こえない。数年前に始めた月々1万円の積立貯金は、残高が120万円になっただけ。翔太にとって、それは何の安心材料にもならなかった。


 ある夜、ふと開いたSNSの友人グループのチャットには、こんな一言が投稿されていた。

「今月の投資、けっこう調子いいよ!5万円増えた!」

 投稿主は、高校時代の友人・鈴木だった。亮介とは違い、鈴木も独身だが、数年前から「投資を始めた」と話していたことを思い出す。翔太は当時、「お金持ちのやることだろ」と軽く聞き流していたが、今その言葉が急に心に刺さった。

「投資…か。俺にもできるのかな?」

 興味と不安が入り混じった気持ちのまま、「投資 初心者」と検索バーに入力した。画面に並ぶ情報の多さに圧倒される。
『楽天証券 vs SBI証券』『投資信託を始めるならこれ!』『初心者必見!つみたてNISAで年利5%を狙え!』

「なんだこれ…全部知らない単語ばっかりじゃないか…」

 翔太は画面をスクロールしながら、少しずつ興味が湧いてくるのを感じた。

「一歩でも踏み出さないと、このまま変わらないのかもしれない…」

 その夜、翔太は鈴木にメッセージを送った。

「なあ、投資ってどうやって始めるんだ?」


続く…

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