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山田金一物語:第7章:港湾課勤務


港湾課は海岸線に出張所として設けられていた。

港湾課の仕事は
「不審船の見張り」
「入港した漁船への給水」
「給水帳簿計算」
だけである。

そんな、ゆるい環境のなか、
金一の鬱は次第に回復していった。

金一は毎日、双眼鏡を持って
不審船を監視した。
そんな至近距離まで侵入してくる不審船など有るはずもない。
簡単に言えば、下関市はちゃんと不審船に対して見張りをしてますよ。という、ポーズである。


一番重要な業務は「給水係」である。

漁船は漁に出る際、タンクに飲料水を備蓄していなければならない。
その飲料水がなくなると、一旦下関市の港に立ち寄り、港湾課に給水を依頼する。

職員は、水道水をホースでタンクに給水する。
給水メーターを見て、給水量から料金を割り出し、漁船の船長から水道料金を現金で受け取るのである。

水道料金の帳簿をつけて、貯まった現金は、一定時期に
係の者が、下関市役所本庁まで運ぶという、業務の流れである。

韓国の漁船も入港した。
金一はハングル語がわからない。
身振り手振りで説明しても
お互いが理解に苦しみ、ミスも多発した。

ここで、金一の潔癖症の性格が現れた。
「お客様の為に、朝鮮語を覚えよう。」

早速、帰宅時に韓国夫人をつかまえて話しかけた。
韓国夫人は、下関の地にあっても、韓国の民族衣装をまとっていたので、一目で韓国人とわかる。

下関では、朝鮮人に対する差別が激しく、石を投げつけられるという有様。

其のような環境の中、金一の態度に惚れ込んだ韓国夫人は
金一の会話の相手となった。

最初から会話は無理なので、
金一の日本語を韓国語に
訳してもらうことから始まり
金一は単語を暗記していった。

そのような交流が、半年も続くと、金一はカタコトながら
ハングル語を操れるようになった。

韓国船の船長は、金一のハングル語を聞き、感激した。

その後、船長と金一の仲は
急速に深まっていくのである。



           続く

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