新宿のキャバ嬢「リサ」
昭和47年、新宿のキャバレーにリサ(20歳)が働いていた。
リサは勿論本名ではなく源氏名である。
福岡の右翼団体のボスのお嬢様。
上京してきたものの、職がなく、手っ取り早く、水商売を選んだ。
気品のある美しい顔立ちとナイスなプロポーションに
右翼のお嬢様だけあって話も上手い。
たちまち人気ベストスリーに入った。
指名客もかなりついた。
ある日、その店に、佐藤
(25歳独身)がやってきた。
佐藤は建築設計の個人事業主である。
景気の良い時代、個人経営が流行ったものである。
何しろ、普通のサラリーマンより、4〜5倍の収入が得られるため、馬鹿らしくてサラリーマンなどやっていられない。
そんな個人経営者で溢れた時代であった。
尤も、近未来のバブルの崩壊で、個人経営は地獄の苦しみをあじわうこととなるのだが
誰しも未来なんて想像出来ない。
佐藤は一目でリサに惚れ込んだ。
週に一度はキャバレーに通い
リサを指名した。
リサにとっては、金払いの良い上客で、カモの佐藤に次第に好意を寄せていくことになる。
時には、佐藤に誘われて、体を許す関係ともなった。
リサは佐藤に夢中になった。
「私と結婚して。」
佐藤は心良く受け止めた。
結婚披露宴は異色の世界であった。
何しろ、ボスの大切なお嬢様の結婚式、
右翼の若い衆が20人以上
黒いスーツに角刈り姿の鋭い目つきで整列し
一斉に深々と頭を下げて挨拶をする。
「お嬢様、この度は誠におめでとうございます!」
その列を前に、リサは堂々とした対応で、一人一人挨拶を交わしながら進んで行く。
佐藤は後からオドオドしながらついていく。
そして、一人の若い衆が、佐藤の耳元で囁いた。
「お嬢様を不幸な目に合わせると、足に石を縛り付けて、東京湾に沈めるぞ〜。」
勿論冗談であるが、佐藤はビビって口も聞けなかった。
それから、佐藤はリサには頭が上がらなくなった。
完
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