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隣の土田さん


昭和40年代の初期
東京都板橋区に、大山建設が施工した、小さな住宅街があった。
2階建て3DKの小さな建て売り住宅街である。

軽自動車がようやく入れる程度の狭い駐車場付きだが、隣の家屋とはフェンスから境界条件の50cmしか離れていない密集住宅街であった。

その建て売り住宅は、五百万円で取り引きされていた。

住宅街に真っ先に入ったのは
70歳近くのお婆さんで、ご主人の遺産で購入したようである。
夫の遺族年金と自分の年金でかなり裕福な暮らしらしく、株を運用していた。

一人息子のAさんは、40過ぎの引きこもりの独身で、全く生活感が無い。
どうやら母親に養われているようである。


駐車場を挟んだ隣に、新婚さんがやってきた。
若奥さんは、名家の出で、結婚祝いに親がポンと五百万円出してくれてこの住宅街にやってきたのである。

旦那は池袋の会社勤めなので、通勤時間はあまりかからず、定時に会社をでれば6時には帰り着く。
甘い新婚生活は続くはずであった。


それから、隣の土田さんの楽しい覗きが始まった。

電気を消した2階の窓のカーテンの隙間から、狭い駐車場越しに若奥さんを覗くのである。

まだ、エアコンの無い時代、夏ともなると、奥さんは、あられもない姿で扇風機の風に当たる。
そんな姿を隣の土田さんは
じっと覗く。

旦那が帰宅すると、食事を済ませた後に、狭い風呂に二人で入る。
暑いので、風呂場の窓は開けっ放し。
二人の裸姿は、隣の土田さんに丸見え。

風呂から上がると、二階のベッドで、夫婦は抱き合う。
二階の窓も開けっ放し。
そんな行為も丸見え。

ある日奥さんは、通信販売で刺激的な真っ赤なパンティーを取り寄せた。
それをはいて夫を挑発するのである。
夫は興奮して、激しく交わる。
隣の土田さんは、その光景を楽しく鑑賞する。

ある日、奥さんが赤いパンティーを洗濯して、干していたところ、赤いパンティーがなくなっていた。

ふと、隣の2階を見上げると
隣の土田さんが、赤いパンティーを頭に被っているのを見つけた。

奥さんは覚った。
今まで監視されていた事を。

怖くなった奥さんは、ご主人と相談したが、ご近所という事もあり、波風は立てられない。

この家を出て、西武池袋線の仏子のマンションに引っ越しすることにした。

通勤はかなり遠くなるが、ここより田舎なので、自宅を売却すれば資金は出来る。
足りない分は、親頼み。
マンションなら、覗き見できないので安心である。


若夫婦が引っ越ししたあとの家には、老夫婦が引っ越ししてきた。


隣の土田さんの楽しみは無くなった。




           完


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