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人魚の涙 ジュゴンの嘆き

人魚のモデルはジュゴンだとの説が最近多いが、それはあり得ないでしょう。

ジュゴンは私も嫌いじゃないが、人魚になぞらえられるには大いに無理がある。人魚とは顔からして似ても似つかない。

ジュゴンは人魚と同じく大きな尾ひれでドルフィンキックするが、草食性で魚を追いかけたりしないためかズングリムックリの体型で、人魚の流れるようなセクシーなボディーラインは持たない。悠然と海底に沈み、その大きな口で水草を舐めるように食す。

また、常に海中におり人魚のように岩礁に登ってしなを作ってくつろいだりしない、干からびて死んでしまうだろう。目はちっこくて愛嬌があるが、人魚のように流し目で人を幻惑することはなさそうだ。


私は人魚のモデルはアシカだと思う。

アシカは海中を流麗に舞うように泳ぐ。ゴーグルのない時代にこの水中動作をみると、身体をしなやかにくゆらせて泳ぐ美しい女性と見えても不思議でない。ディズニーのリトルマーメイドのように多くの人魚は尾ひれが二股に分かれているが、アシカも両脚がそれぞれヒレのように進化してそれを揃えて泳ぐ、人魚そっくりだ。

岩の上で過ごすことが多く、首を伸ばし、つぶらな眼で遠くを見るさまは街の灯りを憧憬するかのごとくだ。長い手を振っておいでおいでと人を誘う。

鳴き声は哀れっぽく、人に成れない悲しみを訴えるのか。ヒゲでさえ、光を浴びて、遠目には頬を伝う涙に見えたろう。ついでに、アシカの仲間のオタリアの雄には胸から後頭部にタテガミがあり女性の長い髪に見えなくもない。


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