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絵、えっ?

犬も歩けば棒にあたる。人も歩けば、人に当たる。
まあ、人に当たれば事件も起きるのである。
学生時代都内に近かったのもあり、上野、神田、御徒町あたりに一人でかけることもあったのだが、神田の通りだっただろうか、画廊というものがあり、絵画の鑑賞チケットのようなものをもった、女性が、
「よかったらみていきませんか」
と声を掛けてきた。まったく、興味などなかったのだが、特別な予定が合ったわけでもなく、無料ということもあり、つい、その誘いにのって、画廊へと足を踏み入れてしまったのだ。まったく、絵の知識もなく、ふらりとだった。当時インターネットもあるわけでもなく、まして、携帯電話なんてものもなかった。ともかく、情報というものは、テレビ、雑誌、友人ぐらいしか、入ってこなかったのである。
画廊には、いろんな絵が飾られてる。ひとつひとつ、女性の案内員のかたが、横についてまわる。当たり前だが、美術の授業で習ったような絵ではない。ひとしきり、絵を見終わると、テーブルのある椅子へと案内された。
世間話をしているなかで、話は変わっていく。
「ご覧になって、いかがですか?」
「ええ、ステキですね」
「気になった絵は、ありますか?」
「あちらの絵は、良かったですね」
「家に絵のある生活っていいですよ~」
私は「でも、お高いですよね」
値札は、何十万から百万円の単位だ。
女性は、「でも、みなんさん、家によく買われてますよ。値段ですが、月々にしたら、数千円程度ですし、分割したらお安いです。日割りにしたら、一日、コーヒー一杯程度ですよ」
私は、「とても、買えたりはしないですよ」と答えた。
そう、この画廊というところは、絵の鑑賞に呼び込みして、店内で捕まえた客へ絵画を販売しているところなのだ。店にはいった、餌食の私は、まさに、蜘蛛の巣に自ら張り付いた、虫そのものの。
逃がさないという強い相手の意思を感じる。そうして、案内した店員さんでは、らちがあかないと思ったのか、ラスボスが登場するのである。
相手は、選手交代。こちらは、学生の一人。分が悪すぎる。買わない、いらないの繰り返しだが、相手は、まさに命がけで攻めてくる。お金は、分割で、絵の素晴らしさ、生活への励みになるなど、どの絵がいいと思うか、いいと思った絵を選んだあなたは、見る目がある。など、契約書まで出して迫ってくる。そうして、店に入ってから、すでに時間はゆうに6時間は過ぎていた。
買わない、要らない。なんとか押し切った。やっと、解放されたのだ。
無駄な時間を費やした。だが、勉強にもなった。知らない画廊には、近づくまい。無料で見られるといっても、入らないのが正解だと。
ネットが発達した今日、どうやら、まだ、同じようなことが行われていることを知った。どうか、若い人には、こんなことがあるのだと気をつけてもらいたい。仮に話にのせられて契約していたらと思うと、正直ゾットする。
過去の苦い思い出話だ。絵で、えっと思わせられた、過去である。

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