ワンナイトホラー 12
「無理だったらやってあげましょうか」
岩永に返事をする前に終わった。以前に中村さんから聞かされていた人の首の落としかたについてのレクチャーが役に立つか微妙だったが……少女の首が転がる。
血管はないが液体のような物質は巡っていたようで少女の首の切断面から黒っぽいものがあふれて、彼女が持つトランプの束が汚れてしまった。
「意外と簡単に切れましたね」
「切れ味も鋭いが肉体が異常に脆かったからな」
穴の中で生きるための進化の結果、殺されやすくなっているんだから皮肉にもほどがある。
少女の頭部を岩永が抱える。表面張力らしきものが働いているようで黒い液体が滴らない。
「心臓があるかないかの違いですかね」
個人的には人外から支給をされたナイフで殺したのに遺体が消えないほうが気になる。
「ナイフを貸してもらえますか」
まだ黒い液体がべったりとついた状態のナイフを岩永に渡す。少女の右の目玉をえぐった。
「血迷っていません。まだ彼女が生きているので」
頭部が叫んだ。正確には生存していた少女の顔が声を震わせ続けている。人間なら喉がないと不可能な動作なのに。
「お兄ちゃん。お姉ちゃん。なんで……どうして。悪いことなんにもしてないよ」
少女が動かせるのは顔だけで、千切れてしまった肉体は操作できないと判断をして良さそうか。
「センちゃんが意味不明なぐらい可愛いからよ」
「うぅ、だったら殺されなければならないね」
サークル名の時もだが相変わらず異性同士の会話は理解できないな。
「痛いのが嫌だったらお姉ちゃんたちにセンちゃんの殺しかたを教えて」
「そんなの知らない。体も痛くないから平気だし」
「首から下がはなれちゃっているんだから当然ね」
残った少女の左目が忙しなく動き大量の涙に似ている液体を流す。
岩永が少女のこめかみにナイフを刺すが問題なく退屈だからか頭部だけの彼女が変顔をする。
「どんな状態でも生命を維持できる臓器がどこかにあるか」
「そもそも寿命がないならどうしようもない」
「ワタシが殺されないと大変なことになるの?」
岩永も答えを伝えなかったけれど少女なりに状況が分かったようで表情が暗くなった。
人間としては欠陥品で存在をしなければ世の中のためになると自覚していても、少女の無垢な考えを利用してでも生き残りたいと願うのは月並みな願いのはずだ。
「センちゃんが死んでくれないとお姉ちゃんたちは悲しい気持ちになっちゃうわね」
「お兄ちゃんが好きなんだ」
岩永の心を見抜いたように少女がにやつく。拙く自分の肉体の急所なんだとマーマに聞かされた部分を教えてくれる。人間の心臓と同じ位置だがナイフで刺しても彼女に変化はなかった。
「力になれなくてごめんね。お兄」
記憶が呼び覚まされたのか少女が固まる。
「もしかしたら刺す場所が反対だったかも」
左胸に刺さったナイフを抜き岩永が反対側に躊躇なく、少女の頭部と肉体が消えていく。彼女も死ぬのは嫌だろうに。
「これでお兄ちゃんとお姉ちゃんのらぶらぶが続けられるね」
満足そうに少女はいなくなりベッドの上には年頃の男女だけとなった。
「遺言でもあるし、本当に付き合ってみるか?」
「きちんとセンちゃんを食べてくれるかを心配するべきでは。同族を食料にするのに否定的な思想を」
「十中八九、食べてくれるよ。女の子だし」
心配するべきは味、人間以上に美味しくなければ今回の計画全てが失敗に終わり。ペナルティは言うまでもなく。
「ロザリオブレスレットのお礼もかねて、その時は中村さんに弟子入りするのでご心配なさらず」
「敵討ちは嬉しいが友達の岩永にそんな残酷な行為はさせられないな」
「トオルさんも冗談を言うんですね」
やはり岩永には全て筒抜けだったのか、僕が利用するのを理解していて部屋まで来てくれるとは。