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【雑記】#名刺代わりの小説10選

FF14の感想を書くためだけに立ち上げたこのnoteも、いよいよ1年経ってしまう。最初の記事は6月26日で、かなり適当な自己紹介だった。
書き始めた当時、今みたいなスタイルになっていろいろ書き散らすとは夢にも思っていなかった。なので、今思えばロードストーンを使わなくてよかったなと思っている。

とにかく、ここで記事を書くにあたっていろいろの作品を引き合いに出して書いてきた。だからずっと「これまで読んできた小説の紹介をしたいな」と思っていた。

そこでそろそろ1年感想を書き続けてきたな、というこのタイミングで私が好きな小説を10冊ご紹介させていただくことにした。直近で読んだ本とはまったく別なので、好きな本を羅列していると思ってもらえればそれでいい。
これを見て「なるほどね、こういうものが好きなんだな」と思ってもらえたら嬉しいし、1冊でも興味を持ってもらえたらもっと嬉しい。

2024/03/13 ここに登場するすべての書籍名に、アマゾンでの販売ページリンクを追加しました。また名刺代わりにならない~の6と7に推薦文?を追加しています。

#名刺代わりの小説10選

1.神曲 ダンテ・アリギエーリ 作/平川祐弘 訳
2.チャイルド・オブ・ゴッド コーマック・マッカーシー 作/黒原敏行 訳
3.金閣寺 三島由紀夫 作
4.魍魎の匣 京極夏彦 作
5.蠅の王 ウィリアム・ゴールディング 作/平井正穂 訳
6.羊たちの沈黙 トマス・ハリス 作/高見浩 訳
7.チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 塩野七生 作
8.レ・ミゼラブル ヴィクトル・ユゴー 作/永山 篤一 訳
9.残穢 小野不由美 作
10.V. トマス・ピンチョン 作/小山太一、佐藤良明 訳

選考から漏れた作品はかなり多い。

  • ベニスに死す トーマス・マン

  • 星の王子さま サン・テグジュペリ

  • 春にして君を離れ アガサ・クリスティ

  • 戦争と平和 トルストイ

  • カラマーゾフの兄弟 ドストエフスキー

この辺は入れたかった。がしかし入らなかった。(これじゃ15選だ)
あ、あと嵐が丘に赤と黒、三体も入れたかった…10って意外と少ない。

1.神曲
   ダンテ・アリギエーリ 作/平川祐弘 訳

人生において一番多くの回数読み返した本。今でも年に1回読み返す。私に古典の面白さを教えてくれた本であり、最も人生を救ってくれた本でもある。
10冊を選べと言われたら、間違いなく真っ先に選ぶ。

イタリアの詩人ダンテは人生の道半ばで、暗い森の中に迷い込んでしまう。そこで出会ったダンテの師、ウェルギリウスとともに地獄、煉獄、天国を見て回ることとなる。

あらすじ

この本の面白いところは、まさに現代のRPGの要素がふんだんに盛り込まれているところだ。誰かに導かれ、谷を下って山を登り、求める人と再会した後に至高の喜びへと到達する…。
主に主人公ダンテとその先生ウェルギリウスを中心としつつも、群像劇ととらえられなくもない。ダンテと同時代を生きた人、さらに昔を生きた人、神話の登場人などなど、とにかく登場人物の幅が広い。

聖書にギリシャ神話、ローマ神話の本を脇に置いて、分からない用語が出てきたらどういう意味か確認しながら読み進める。何度も繰り返し読むことで、ようやくその意味を理解する。
そういう、本が貴重品だった時代の読書を経験させてくれる本でもある。

またこの作品を翻訳した平川祐弘先生の文章が、非常に柔らかで読みやすい。新版が出ているのでこれから読むならそちらをお勧めするけれど(そちらは最新のダンテ研究に基づく翻訳だ)、私は断然平川先生訳が好きだ。

2.チャイルド・オブ・ゴッド 
   コーマック・マッカーシー 作/黒原敏行 訳

文章を読むオタク、書くオタクは絶対にコーマック・マッカーシーを読んでほしい!!と思っているのにいまいち知名度がない気がする。
小説を書くとはどういうことなのか、物語を読むとはどういうことなのかを考えるきっかけになった本。

主人公のレスターは暴力的な性向を持った男だ。家族を失い、家を失った彼はやがてテネシーの山中で暮らしはじめる。次第に社会とのつながりさえ失われていくなか、彼は凄惨な犯罪に手を染めることになる……。

あらすじ

社会から疎外されるとはどういうことか、その社会につながりを持てないとはどういうことかを冷徹かつそぎ落とされた文体で表現している。

「父親が首を吊ったあと、その遺体を下すために息子であるレスターが近所の人に声をかけにいかねばならなかった」という文章だけで、社会からの断絶を描くなんて誰が想像しただろう?
近隣の人々と一切の交渉がないから最近見かけないよな?どうしたんだろう?とも思われない。だから誰も助けてくれない。誰からも存在を認められない、いないもののように扱われる人間の孤独が、淡々とした筆致でただ描写されていく。

映画「ジョーカー」や一時話題になった漫画「アンチマン」より一層冷徹な物語だと思っている。
コーマック・マッカーシーはその結果に至るまでの理由を非常に重要視している作家だと思うのだが、まさにこの本はなぜ主人公が孤立し、凄惨な殺人に至る結果となったのか、その点を淡々と描いている。

3.金閣寺 三島由紀夫 作

高校生の頃、当時仲良くなった司書の先生が三島由紀夫ファンだった。
その先生は当時すでに60代。お金持ちのおうちのお嬢様の独身貴族だった。当時まだ海外旅行がかなり珍しかったころに、18歳にして世界一周したような人だ。変わった人だったが、そのせいか私にはやたら優しくしてくれた。
その人から聞かされたフランスの話は非常に印象深く、今でもよくよくルーブルの話は覚えている。ちょうど「金閣寺」の導入で「私」が父からさんざん聞かされた金閣寺の話のように。

ということで珍しく読書に至るまでの体験と内容が合致した本、それが金閣寺だ。
その後フランス旅行で行ったルーブルでは大変感動したので、「私」と私の体験が完全には合致しなかったのだが、この話をフランス人にしたときはどえらくウケた。フランス人って三島とか北野武とか、なんか好きだよね。

さてこの物語ですごいところは、金閣寺というタイトルで金閣寺が全焼した事件を題材にしながら、最後の最後まで金閣寺が燃えないところだ。つまり、金閣寺を燃やすまでの「私」の心情や行動をいつまでもダラダラと書いているところにある。
金閣寺が燃えることは決まっている。三島にとっては「なぜ金閣寺を燃やさねばらなないのか」が大切であり、燃やした後のことなどどうでもよかったのか?というぐらい唐突に終わる。

つまり「金閣寺」とは三島にとって何らかのメタファーであり、その金閣寺との関係を清算したことで「生きよう」と思う……この流れに終始しているのが面白い。

間違いなく、私が「なぜこの人はこういう行動をするに至ったのか」を考えるきっかけになっている。最近読んでいないので読み直そうかな。

4.魍魎の匣 京極夏彦 作

堂々の煉瓦。
アニメ版はキャラクターが美化され過ぎていていまいちだが、漫画版は最高。小説が難しければ漫画版で読んでほしい。

暗い性格で友達もいなかった楠本頼子は、クラス一の秀才で美少女の柚木加菜子に突然「私たちは互いが互いの生まれ変わりなんだ」と声をかけられる。始めは戸惑う頼子だったが、互いに孤独だった2人は親交を深め、2人で最終電車に乗って湖を見に行こうと約束する。しかし……

あらすじ

初めて読破した京極夏彦作品で、今でもたまに読む。
すさまじい物量で攻めかかってこられて、文字の勢いに圧倒される経験を始めてした本がこれだった。
今思うとこれを中学生の頃に経験していてよかったなぁ、と思うのだ。内容を理解できない、押しつぶされるような太刀打ちできない本が存在するというのは京極夏彦に初めて味わわされた。

怪奇であり、青春であり、推理であり…一口にジャンルを決められない奇々怪々な本というイメージが何度読んでも抜けない。どこにフォーカスするかで味が変わる。
物語としては最後の雨宮の行く末にまたぞっとさせられるし、そこで冒頭の言葉を回収してくるところが好きだ。

だが一番気に入っているところは書き出し文。美しくて一番好き。漫画版も良い。
「祖母が亡くなったので、急ぎ帰省した」も捨てがたく良い。人のいない季節の電車、ボックス席の窓際でうとうとと舟をこぐうち、目の前に箱を抱えた男が現れる……幻想的だ。
もちろん「私は、加菜子のことが好き。」から始まる畳みかけるように美少女の見た目の良さを描写していくページからスタートするのも大好きだ。明らかに影響を受けた。

5.蠅の王
  ウィリアム・ゴールディング 作/平井正穂 訳

暗黒版十五少年漂流記。
ウィリアム・ゴールディングは他にも読んだが、ぶっちぎりでこの本が面白い。新訳も最近出たらしいので、そっちも読みたい。

飛行機の墜落事故により子供だけで無人島に取り残されてしまう。
主人公のラルフを中心に子供たちは団結するが、やがて彼らは自らの内なる獣に飲まれていくこととなり……。

あらすじ

こんなに的確に、子供という残酷な生き物の生態をとらえた物語が他に存在するだろうか?
よく「子供ってかわいいよね~!」とか「天使みたいだよね~」という幼稚園教諭希望の同級生がいたのだが「こいつ正気か???」と割とマジで思っていた。今でも思っている。
そういう気持ちをここまで見事に言語化した本を、私は他に知らない。
ウィリアム・ゴールディングは子供のことをよく見ているよなぁと感心してしまう。

たとえばこの作品の中で、唯一現実的な考え方をするのがピギーだ。ところがピギーが眼鏡をかけて小太りで変な外見をしているというだけで、誰も真面目に彼の話を聞かない。しかも小太りだからピギー(子豚)という侮辱的なあだ名をつける。
主人公であるラルフでさえ(一応ピギーの友達だ)、ピギーの言うことを取り合わず、ピギーが困らされている様子を笑ったりする。

そうそう、子供ってこういう感じだよなあ。とめちゃくちゃ納得する。
子供は大人のように少し飲み込んで話をしたり、偽善でコーティングすることがない。だからダイレクトに他人に悪意を浴びせることができるし、深く考えないから見た目で勝手に判断する。
ゴールディングという作家は子供をよく知っていると思うと同時に、この残酷性を大人になった今、少しはまともに飼いならせているか?とも思う。
ふとした瞬間現れる残酷な人間の面は、常に獣として私たちの中に存在するのだと思い出させてくれる。

6.羊たちの沈黙
   トマス・ハリス 作/高見浩 訳

映画版のアンソニー・ホプキンスの演技は、いまだに燦然と輝いている。若いレクターを演じたギャスパー・ウリエルも最高だった。ドラマ版も時代設定は異なるが、マッツ・ミケルセンのレクターは唯一無二と言える。
だが小説の中のHannibal the Cannibalそのものが、きらきらと光る悪役界の大スターなのだからそれも当然のことと言えるかもしれない。

とある猟奇殺人犯に関する情報を得るため、投獄されているハンニバル・レクターのもとに送られたFBI訓練生のクラリス・スターリング。
レクター博士はクラリスをすげなくあしらうが、彼女が囚人の一人に辱められたことに怒り、その非礼への償いとして最初のヒントを与える。その後、クラリスの少女時代の記憶、秘められた過去の話と引き換えに、博士は彼女へ事件解決のアドバイスを与えていく……

あらすじ

この作品の中のハンニバル・レクターは椅子に縛り付けられ、精神異常者ばかりがぶち込まれている刑務所の中に服役中だ。
そこにクラリスがやってくるのだが、レクターはだんだんとクラリスに対して執着を強めていく。その結果クラリスに粗相をしたある犯罪者を言葉巧みに自殺にまで追い込んだり、事件が解決したのちクラリスに手紙を出してきたり、続編ではなんと……というように、ついつい読むと二人の関係性に注目してしまう。

だからハンニバル・レクターシリーズは二人の恋愛小説なのだ!と思っているくらいだ。
個人的に一方的に愛を募らせるコミュニケーションが好きなのは、レクター博士の影響がでかいと思う。人を狂わせる魔性の男だ、ばんそうこうの匂いを嗅ぎつける変態だけど。

7.チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷 
   塩野七生 作

心底オタク好みのタイトルなのに、意外と読んでいない人が多い。
塩野七生の本は司馬遼太郎と同じく、あくまでも「歴史小説」だ。小説というには書き口がちょっと変わっているが、そこも含めて個人的には気に入っている。
歴史の大まかな流れを理解するのには良い本だと思う。
すべてを真実と思わず、たとえ歴史書であろうとも編纂した人のレンズを通し、私は歴史を見ているのだと意識するきっかけになった。

法王の息子というキリスト教世界での異端児でありながら、チェーザレは枢機卿にまで上り詰めた。しかしその象徴である緋の衣を脱ぎ捨て、真の目標に向け進み始める。その野望とは「イタリア統一」……。

あらすじ

冒頭の「剣の女王」の話から引き込まれ、どんどん読み進めてしまう。
ローマ法王の息子は本来存在すべきではない。しかしチェーザレは存在している。その存在を誇示するように、野心のむくままに彼は自らの目標に向けて走り出していく。
チェーザレ・ボルジアとはいったい何者なのか?31歳で死んでいった彼は、一体何を誤ったために死んだのか?

作者が物語ってくれるような文章なのが好きだ。まるで寝る前の読み聞かせのような、歴史の授業を受けているような、何とも言えない気持ちになる。
メモを取ってまとめ、頭を整理しながら読むのが楽しい。

2回目に読んだときは、合わせてマキャヴェッリの「君主論」も読んだし、惣領冬実の「チェーザレ 破壊の創造者」を読んだりもした。
ここからあちこち伸びていったその根源であると思うと、この10冊の中には絶対入れるべきだと思っている。

8.レ・ミゼラブル
   ヴィクトル・ユゴー 作/永山 篤一 訳

ミュージカルにもなり映画にもなった名作。青い鳥文庫の背表紙に描かれたリトル・コゼットが忘れらえない。

1815年10月のある日、ディーニュのミリエル司教の司教館を、46歳の男が訪れる。男の名はジャン・ヴァルジャン。姉の子ども達のために、1本のパンを盗んだ罪でトゥーロンの徒刑場で19年も服役していた。行く先々で冷遇された彼を、司教は温かく迎え入れる。しかし、その夜、司教が大切にしていた銀食器をヴァルジャンは盗んでしまう……。

私が一番好きなのはこのあとの一連のシーンだ。
翌朝、彼を捕らえた憲兵に対して司教は「食器は私が与えた」と彼を放免させた上に、残りの2本の銀の燭台も差し出して「持って行きなさいと言ったのに忘れたでしょう」といって彼に与えてしまう。人間不信と憎悪の塊であったヴァルジャンの魂は司教の信念に打ち砕かれる。

ミュージカル版ではこのシーンでヴァルジャンが、聖人として生きようと決めたと表現されているが厳密には違うのだ。
このあと子供に対して、ヴァルジャンは冷たい仕打ちをしてしまう。そうしてそこで初めてもっと深く後悔する……。

ながーい小説なので読んでいるうちに訳が分からなくなるけれど、だからこそ読んでほしい。キリスト教的観念とはなんなのか、罪の許しとはどういうことかを知るきっかけとなった。
ヴィクトル・ユーゴーは人間の善性を信じているのかそうじゃないのか、ちょっと不思議な作家だと思う。思うのだけど、そんなことより本人がなかなかイケメンのおじさんで絶倫と書かれていたり、なぜかカオダイ教という宗教の聖人に祭り上げられていたりと、そっちもかなり気になる。

9.残穢
   小野不由美 作

人生で初めて「本棚に並べておきたくないなあ」と思わされた本。だが何度も読んでしまう。
十二国記を読んでいない私にとって、小野不由美はホラー小説を書くのがうまくて、綾辻行人の奥さんで館シリーズの図面を引いていて、PuiPuiモルカーの大ファンで、あと熱心なヒカセンであるというイメージである。

京都市で暮らす小説家の〈私〉のもとに2001年の末、嘗ての読者で「岡谷マンション」の204号室に住む30代の女性・久保から1通の手紙が届く。なんでも久保がリビングでライターの仕事をしていると、背後の開けっ放しの寝室から「畳を掃くような音」がするのだという……。

残穢の恐ろしいところは「その正体が全く分からないところ」に集約される。
これが恐怖の正体なのか?と思うとこれも違う、それも違う、あれも違う…。入れ子のように次々現れる怪異のその底を見ても、結局よくわからない。何の関係もないのに突然呪われ、突然死ぬ。何の因果があるのか全く理解ができない…だが恐怖は間違いなくそこにある…というところにあると思っている。
これこそ間違いなく「リング」から連なるジャパニーズホラーの真髄だ。残穢は「何も分からないから怖いのだ」「見えないところは怖いのだ」という、恐怖に関する根源を思い出させてくれる。

私なら、もし嫌いな奴が一人暮らしを始めると言った時間違いなくプレゼントとして送り付ける。家が安心できる場所ではなくなるイヤすぎる本だ。
ここだとスペースが足りなくなるのでこの辺でやめる。
想像力豊かな怖がりには絶対読んでほしい。

10.V.
    トマス・ピンチョン 作/小山太一、佐藤良明 訳

闇の世界史の随所に現れる謎の女、V.。その謎に取り憑かれた「探求者」ハーバート・ステンシルと、そこらはどうでもよい「木偶の坊」ベニー・プロフェインの二人は出会い、やがて運命の地へと吸い寄せられる……。

読んだけど意味が分からず、???となったけど1冊3000円のハードカバーを2冊も買った手前逃げられず、結局最後まで読んで理解不能になり、仕方がないからもう一度読み直したけど結局1ミリも理解できなかった。

大丈夫か!?大丈夫なのか!?こんなのがアメリカ現代文学史に燦然と輝くすんごい作家でいいのか!?まあ、いいのかなぁ……私よりはすごい存在の本だしなぁ…と、よくわからない納得をしながらいったん本棚にしまって、それからいやいやもう一度読んでみたらわかるかもしれないと、果敢に挑んで失敗している。今のところ2戦2敗、完全にピンチョンに敗北している。

こんな圧倒体な物量で死ぬ思いをしたのは、それこそトルストイの「戦争と平和」を読みながら登場人物を都度ノートを整理し、した結果誰が誰だか分からなくなって放棄をしかけた高校以来だ。血反吐を吐きながら読破したが、その時もなんかよく分かんなかったと思った。

仕事しながら読むもんじゃなかったので、有給消化中に再度読むつもりだ。
だけど読んだところで理解できるのか?あちこちに話がとっちらかり、一体どこに終着点があるのか見えない、きりもみしながら吹っ飛ばされるジェットコースターみたいだ。まるで私が話をしている時のよう。
なのに読み始めると止まらなくなる。ここが私の話とは違う。吸引力がやばいのだ。
1ミリも理解できないのに果敢に挑みたくなる……ということで10冊目に突っ込んでしまった。

#名刺にならない小説以外10選

あまりにも小説以外の本を除外するのが心苦しい、と思ったのでそっちも10選。こうしてみると古い本が多いな~

1.八本足の蝶 二階堂奥歯
2.冷血 トルーマン・カポーティ
3.心臓を貫かれて マイケル・ギルモア
4.「いい人」をやめると楽になる 曽野 綾子
5.自省録 マルクス・アウレリウス・アントニヌス/神谷美恵子 訳
6.アグルーカの行方-129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極-
7.書を捨てよ町へ出よう 寺山修司
8.銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイヤモンド
9.これからの「正義」の話をしよう マイケル・サンデル
10.ホーキング、宇宙を語る スティーブン・ホーキング

1.八本足の蝶 二階堂奥歯

25歳で自殺した女性編集者、二階堂奥歯の日記を書籍化したもの。上述の10冊に追加するか迷ったが、小説ではないのでこちらにした。
現在もネット上には彼女のサイトがそのまま残されており、その衝撃的な最期の日記からさかのぼり、読むことができる。

今もキラキラ輝く最初のページに戻れば、画集を受け取りに行く彼女の姿が目に浮かぶ。本屋に入り浸り、読書の神様のささやきに則り昼休憩を30分延長し、ありとあらゆる種類の本をむさぼるように読み……生粋のビブリオフィリアの脳内をこっそりと覗き、そして彼女が価値を見出せなかった世界に今生きることを時折考える。

2.冷血 トルーマン・カポーティ 著/佐々田 雅子 訳

作者が2人の殺人犯を中心にインタビューを重ねた、ノンフィクション・ノベルの金字塔。ノベルというには個人的に「?」て感じなのでこちらに。

表向き加害者と友情を深めながら、内心では作品の発表のために死刑執行を望んでいたカポーティ自身を表すのではないか、というタイトルがついたこの本は、「ティファニーで朝食を」などですでに商業的成功を収めていたカポーティに更なる富をもたらした。だがこれ以降、長編小説を書くことはない。それくらい彼が心血を注いで書いた本なのだろう。

登場するセリフも忘れがたいものが多い。特に無抵抗の一家四人を殺害した男はこう語る。

彼らは感じのいい人たちだった。人生の中で、俺をまともに扱ってくれた数少ない人間の一人だった。彼らには、俺が歩んだ人生のツケを支払わせてしまった」

この言葉の意味をずっと考えている。

3.心臓を貫かれて マイケル・ギルモア 著/村上春樹 訳

20冊を選んだ中で、唯一の村上春樹。
基本的に私は村上春樹が嫌いだ。一応全部読んだけどなんか鼻につくんだよな、やれやれってか。

だがこの本はすごいと認めざるを得ない。なんでも村上春樹の奥さんが「この本はすごいから読んだ方がいい」と原書を読むことを勧めたことが翻訳のきっかけだったそうだ。
殺人鬼となり、しかも死刑反対の潮流の中で自ら望んで死刑になった兄の足跡を弟がたどる。どうして兄は殺人鬼になったのか?ほかの道はなかったのか?
そして最後にたどり着くのは「父なるものの呪縛」……下手なホラー小説より怖い。たくさんの人に読んでほしい本だ。
定期的にnoteでも引き合いに出してしまうくらい。
ゲイリー・ギルモアがやったことは絶対に許されない。だが、彼のことを思ってここまで調べ上げ、ずっと彼のことを考え続けた弟がいたことは彼の救いになってほしいと思う。

4.「いい人」をやめると楽になる 曽野 綾子

別に作者は好きではないが、なんでか高校時代に読んで「お、いいじゃん」と思った。私の読書体験の中で「いいじゃん」は高校時代ばかりに存在する。

上皇后美智子様のご学友としても知られるクリスチャンの彼女とは、基本的に保守的過ぎて考え方がこれっぽっちもかみ合わねぇ!ミリも共感できない!!みたいなことが多い。
だが「他人に期待するとがっかりするので、最初から期待しないでおく。そうすると思わぬ親切を受けたときに自分にがっかりすれば済む」みたいなことを書いていて、こういうところは大好きだ。私もそう言うマインドで生きていたい。

どんな人でも嫌な思いはするよねとか、ああそうやって思うよねみたいな、隔世の感がある相手に親近感を覚える瞬間を味わうために読んでいる。

5.自省録 マルクス・アウレリウス・アントニヌス/神谷美恵子 訳

哲学皇帝、マルクス・アウレリウス・アントニヌスの日記。
これを読むと「いや~~ローマ皇帝と言ってもやっぱ人間だな!」と安心するので好きだ。
日本語訳を担当した神谷美恵子による冒頭文もまたいい。
乳飲み子を抱えて翻訳したというその環境が、もう50年は経っているのにワーキングマザーの環境の変わらなさを表している。

さてその内容はと言えば、部下にキレ散らかさないようにとかもっとこうできた、ああしたかった、これはこう、今日はこれをした…みたいな内容が続く。まーじで安心する。同じこと何度も書いてるもん…やはり人間なのだ、やつも私も。
ローマ帝国という人類史上類を見ない巨大帝国の頂点に立った男も、考えることは私と大して変わっていない。とはいえ彼は生粋の哲人皇帝。そのお言葉は重みがある。哲人皇帝が言い聞かせていたという事実もまた、その言葉に重さをプラスする。

6.アグルーカの行方-129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極- 角幡唯介

タイトルにも名前の出ているフランクリンは、極地探検で極度の空腹に苛まれ、自らの靴底すら食らった……にも関わらず、再び1845年に北極海探検航海へ出発する。その結果ともに冒険に旅立った仲間たち129名が失踪する結果となった。3年経っても、誰一人帰ってこなかった。

この本は作者がフランクリン隊の足跡を辿って同じルートで北極を踏破しながら、弱肉強食の世界に身を置く過酷さ、自分という生き物の残酷さまでもを克明に記録したものだ。
途中に現れるジャコウウシを仕留めるシーンは印象深い。
空腹にさいなまれ続けた作者一行は、生き永らえるためにジャコウウシを仕留める。その脇にいる子牛は母牛が殺され泣きわめいている。母牛なくして生き延びられない子牛を、作者は再び殺す。
この瞬間作者は「自分が残酷であることを知った」という。人間という生き物の残酷さはあちこちで見られるが、自分自身の残酷さを知る経験はなかなかできない。

とはいえ、この読書体験を完璧にここで表現することはできない。先ほどのジャコウウシの下りは最たるものだ。
ジャンルが何なのかを決めがたい内容であることも理由だが、とにかくこの本が極地探検のすべてを表していないように、この短い文章では表現のしようがない。
チャンスがあるならkindleではなく紙の本で読んでほしい。

7.書を捨てよ、町へ出よう 寺山修司

本のくせに、出かけろよ引きこもり!と言わんばかりのタイトル。ブラタモリ のOP、井上陽水の「女神」の歌詞みたいなタイトルだ。

ぼんやり眺めてぼんやりと読み、それからうーんこんなもん読むなら散歩でも行くか!とはならない。むしろふんだんに古典をはじめとする様々な名著からの引用があるから、毎度毎度本を確認する羽目になる。
つまり、書を捨てる前に書を読まねばならぬのだ…とファウストよろしく読書家の寺山修司に諭されている。そういう本だと思っている。

8.銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイヤモンド

ぶっちゃけ入れるかどうかもはや悩むレベルなんだけど(批判もとっても多いしね)、とはいえ面白さではぶっちぎっているし、今読んでもぶっちぎっている感じがする。

何故人類は、こんなにも富の分配が不平等なことになったのか?文明の発展度合いがどうしてこんなに違うのか?それは白人が優秀だからだと言われていたり、誰しもがそう考えていた時代(これが2000年代なのが凄いよな!)「こうじゃね?」「白人は別に優秀じゃないでしょ」と一石を投じた本が、この「銃・病原菌・鉄」なのだ。
今から読んでみるとちょっと違うな~ってことも多い。だがそれをぶっちぎってでも読ませる力がある。
世界史が好きなので読んだが、読んでおいてよかった本だ。こういう考え方もあるのか、という発見があるので、今読んでも面白いと思う。
最新の学術関係の本と併せて読めば、学者の考え方の変化や時代の移り変わりものぞける。

9.これからの「正義」の話をしよう マイケル・サンデル
アメリカ、ハーバード大学には伝説の講義がある。それこそがマイケル・サンデル教授による「Justis」という政治哲学講座だった。
NHKで「ハーバード白熱教室」という番組にもなり、日本でも社会現象を巻き起こしている。
この本はそんなサンデル教授の考え方がまとめられたものだ。
ネットでも定期的に話題になるトロッコ問題など、様々な問題を取り上げながら一体何が正義なのか?と問い続けている。

ゲームばっかりやっていると、だんだん倫理観がブレブレなクソ感想を書きそうになるのでたまに読むようにしている。
それはさておき難しい本なので、半分以上理解できているとはいいがたい。
だがこういう思索の海に生きる人々がいるということが面白く、そのために手放しがたい本。

10.ホーキング、宇宙を語る スティーブン・ホーキング

子供のころの私は、宇宙飛行士になりたかった。その話をしたら父が買ってくれたのがこの「ホーキング、宇宙を語る」だった。
ホーキング博士は学生時代、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という不治の病にかかった。アイス・バケツ・チャレンジによるチャリティでも知られるこの病気は、発症後10年程度で亡くなってしまう方がほとんど。そんな中、症状の進展がなぜかストップした彼は、50年にわたって精力的に研究を続けていた。なお彼の専門は「理論物理学」。なんじゃそりゃって感じである。

そんなホーキング博士が、科学に疎い私のような一般市民に向けて分かりやすく解説をするーーそれがこの本だ。今読んでも面白れぇ~!1995年の本とは思えない。定期的に内容がアップデートされていたらしい。
またホーキング博士は難解な事象を、より詳しく解説することも放棄していない。
こうした難解な本を読み「なるほどね~完全に理解した(なんにも分かってない)」となるのが、私は大好きだ。だからついつい読んでしまう。
ついでに、天才の頭の中身を覗くことができるのも魅力的だ。

ビブリオフィリアには遠いがそうなりたい

ということで20冊のご紹介。
なんか好みがわかるか?と思ったけどなんとも微妙なラインナップになってしまった。
そういえば聖書もかなり読んでいて、特に旧約聖書はかなり好きなものが多いのだが今回は除外した。ちょっと宗教色が濃くなりすぎるな。

これを読んでいるヒカセンは、そもそも読書が好きなのか?好きならどんな本を10冊選ぶのか?いや、いっそ名刺代わりのゲーム10選の方が適しているか?と色々考えている。

今後もいろいろ読んでいくとは思うので、面白そうな本を片っ端から読む時間とお金と、あと本を置いて置ける本棚がほしい。
あともっとたくさんエオインする余裕。


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