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ハマかぶれ日記228〜14歳の残像

 中3の息子の部活総決算となる中学総体の東京都剣道大会がきのう、開かれ、終日、観戦・応援してきた。会場の東京武道館は足立区綾瀬にあり、住んでいる杉並区からはずいぶん遠い。朝6時半に家を出て他の選手やその保護者たちと待ち合わせ、中央線の電車に乗ったものの、御茶の水で乗り換えるべき地下鉄・千代田線が信号装置の故障のため区間不通で迂回を余儀なくされた。ようやく会場に着いたら8時半。暑さもこたえて、ここまでですでに前期高齢者の身は悲鳴を上げかかっていた。
 さらに午前中は女子の個人の部で、開会式後も延々、観戦者用の座席に座り、息子の中学が出る男子団体の部が始まるのを待ち続けなければならない。ついに登場という段になって時計を見たら、何と午後2時34分。かなりヘロヘロになった体を無理矢理、シャキンと伸ばした。
 6時間も待った割に、結末は呆気なかった。相手は結構な強豪校で、先鋒でチームに勢いをつけたい息子は「何が何でも勝たねば」の緊張でガチガチのようだ。なかなかうまく技を出せず、決め手がないまま3分の試合時間の3分の2ほどが過ぎる。そこで踏み込んで打った面が一瞬、決まったかに見えたが浅く、潜り込んだ相手に胴を抜かれてしまった。そのまま時間切れで1本負けとなった。
 先鋒として杉並・中野・練馬のブロック予選でもチームを引っ張った副部長の息子がそれでは、気勢は上がらない。結局、勝ったのは5人チームで1人だけの1勝4敗で1回線敗退が決まった。試合終了直後に挨拶で整列した息子の顔を見ると、歪んでいる。この日に向けて新調した汗どめフレーム付きの運動用メガネも遠目に曇っているように見えた。「悪いところが全部、出た。後のみんなに悪いことをした」。試合場から引き上げての一声は、責任を果たせなかった悔いに満ちていた。
 息子のしょげぶりも手伝って帰路は、長時間の待機に濡れ雑巾みたいに重くなった体に気持ちの重さも加わった気息奄々の電車行となった。勝負事はやはり勝たなければならない。けれど、負けたことで学ぶことも多いはず。クヨクヨせず頑張れよ、と慰めにもならないだろう陳腐な独り言を14歳の沈んだ横顔に向けて呟き続けていた。
 この間、息子がブロック予選を勝った際にも取り上げたが、55年前、筆者が同じ14歳、中3の時の日記を開いてみると、8月6日、中学総体・卓球香川県大会の男子個人の部に郡代表として出場した試合の記述があった。1回戦を勝ち、2回戦をラッキーな不戦勝、そして臨んだ3回戦、勝てばベスト8に入り四国大会出場という試合で、セットカウント2対0でストレート負けしていた。「勝てそうで勝てない。リードしそうでリードできない。相手も時々、ミスをするが、セーフティーリードで押し切られた」とある。スコアは21対16、21対9。負けてすぐに会場を後にした。
 その相手が結局、準優勝したことを翌日になって知ったようだ。日記には、「大したことはないと思ったのだったが、やはり強かった。勝てそうで勝てない。そういうタイプの選手が強いのだろう」と総括している。見え隠れする虚勢と、いくばくかの教訓と。青春の入り口に立って一所懸命、毎日を送っていた遠い昔のわが姿を愛おしく思う。息子にもきっと、そんな日が来ることだろう。今は静かに見守るだけだ。
 プロ野球は昨夜、セパ対抗のオールスター戦が行われ、セ・リーグが11対6で乱戦を制した。わが横浜ベイスターズは、野手6人、投手2人とリーグ最多の選手が試合に出て、それぞれ持ち味を発揮。中でも主砲の牧は2本塁打3打点の華々しい活躍でMVPに輝いた。
 牧にも、うまくいかなくて落ち込んだ幼い日々があったはず。それをどうやって肥やしにしてきたのかな。珍しい角度からしばしの思いに耽ったのは、むろん、昼間の出来事と無縁ではない。いつもなら、ああ、もったいない。本塁打はペナントレースに取っておいてよ。なんぞと、ケチくさい願いばかりが先行するところだが・・。
 
 
 
 

 

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