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ハマかぶれ日記229〜そのうち、そのうちの反省

 70歳まで、あと8か月。この歳になると、そのうち、そのうちとお題目を唱えるように年賀状などで再会を言い交わしているうちに、鬼籍に入る知人が増えてきた。約40年前に仕事でお世話になり、盆暮の挨拶を欠かさずしてきたFさんもその一人だ。
 昨年末、お歳暮のお返しが届いたので礼状をしたためなければと思っていたら、奥さんから涙声で電話がかかり、急に体調を崩して亡くなったという。86歳。死因は動脈瘤の破裂だったとか。驚くとともに、「また、ぐずぐずしているうちに会える機会を逸してしまった」と深い悔いが込み上げた。数えれば、そんな人が昨年は4人を数えた。
 通夜、葬式には仕事などで参列できなかったため、新盆のこの時期まで待って、きょう、国分寺市のご自宅を弔問した。最後に会ってもう10数年になるFさんの奥さんと、同居の娘さんご夫婦、さらに近くに住むその娘さんと生まれたばかりの男の子の4世代に出迎えられて、思い出話のひと時を過ごした。
 Fさんは熊本出身。地元の名門・熊本高を卒業後、警視庁に入り、叩き上げの身で公安部の2つの課長ポストや3警察署の署長を務めるキャリアを積み上げた。
 最初に出会ったのは原宿警察署長の頃で、仕事上のトラブルの処理を手助けしてもらった。警察小説の人気作家、今野敏さんの作品にしばしば登場するような、権力意識の強い冷酷な公安警察官とは全く異なり、ホクホクとしたおおらかな笑顔が特徴の好人物。様々な問題について、温かいアドバイスを受けた。蕎麦が好きで、ある日、「これが現場風」と冷酒を盛り蕎麦にぶっかけて啜ったりするのを見て、妙に感心したことを覚えている。
 招き入れられた位牌のある部屋には、原宿時代と警視庁退官時の2葉の大きな写真が飾ってあり、見るなり「遅くなり、申し訳ありません」と詫びが口をついて出た。奥さんに「会えるのを楽しみに待っていたんですよ」と言われれば、立つ瀬もない。あれやこれや昔話に話題を振って、その場をしのいだ。
 帰宅して、「そのうち、そのうち」状態が続いている2人の年配の方に連絡を取った。「やっぱり、お昼だね」。共通するのは、もう夜は帰りが面倒なので、昼飲みがいいということ。中野に新宿に。少し暑さも緩むだろう頃合いに出撃して、チビチビと昔話が肴の昼酒を啜るのを楽しみにしている。
 俳人の坪内捻典さんが編んだ「一億人のための辞世の句」に次のような一句が収蔵されているという。
 裏もあり表もありて七十年
 確かに人生はそう。でも、これからしみじみと飲む酒に、裏の顔は要らない。
 プロ野球はオールスターブレイクも終えて、あす26日からペナントレースの後半戦に入る。わが横浜ベイスターズは、いきなり首位・巨人との3連戦。今、ゲーム差は2・5差の3位。正念場ではある。
 せっかくの酒が不味くならないよう、奮闘を祈るのみだ。

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