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ハマかぶれ日記200〜川鵜にオベーション

 早起きは3文の得とか。どれぐらいのお得感か値段のつけようはないが、雨をついて出動した定刻5時半からの散歩で、とても面白い場面に出くわした。雨に体が濡れたのを差し引いてもお釣りがくるめっけものと、嬉しくなった。
 家を出てものの2分も歩いたころ、水嵩を増し、薄茶色の濁流となって下る善福寺川の速い流れに抗して懸命に潜る川鵜を見た。「こんな日にご苦労様。餌は見つけられないだろうに」。ここまでは普通の成り行きだ。ところが、川鵜が水面に浮き上がると、何と、うねうねとくねる20センチ超の大ぶりな魚を咥えているではないか。
 茶褐色でぬらぬらとした姿形は、いつもの獲物の銀色のハヤの類とは明らかに違う。子ナマズか大きなドジョウか。ハヤなら鱗があって滑らないので、嘴で向きを変え、頭から容易に鵜呑みにできる。ところが、今回ばかりは要領を得ない。必死で向きを変えて飲み込もうとするものの、くねりくねりと嘴に巻き付いたりして、うまくいかない。ともすれば落っことしそうになる。
 そうこうするうちに、めざとくその悪戦苦闘ぶりを見つけたもう1羽の川鵜が飛んで来て、グエっと奇声を発して体当たりするように襲いかかった。あわや獲物の横取り、と懸念した瞬間、ハントの成功者は際どく無理くり飲み込んで「専有者」の意地を見せた。めでたし、めでたし。だが、これで終わらない。騒ぎに悪天候と戦う闘志の火をつけられたのか、現場に急行して早瀬に降り立ったのが、近くにいた白鷺や青鷺だ。うーむ、その意気込みは買うとして、「柳の下のドジョウ」の諺は知ってるよね、とうそぶいてみた。
 この寸劇みたいな楽しい光景、眼福で唐突に思い浮かんだのが、世に知られる国宝「瓢鮎図」だ。15世紀前半、室町時代に時の将軍・足利義持の命によって画僧の如拙が描いた水墨画の傑作。川の流れの中を泳ぐナマズ(このころ鮎と表記)を、岸辺の男が瓢箪(ひょうたん)で捕えようとしている。できる? できるわけないよね。じゃあ、この絵の問いかけをどう考えればいいの・・。禅問答を滑稽画に落とし込んだ。31人もの禅僧が寄せた画讃が添えられている。
 今朝の川鵜の場合、見事に答えを出した。さすがにおちょぼ口の瓢箪とは違う。一方、70年近いわが人生を振り返れば、うねうねくねくねとの取っ組み合いの連続で、消耗することばかりだった。今朝の興奮は、うまくこなした川鵜の姿に拍手を送りたい気分も手伝ったのだろう。
 さて、わが横浜ベイスターズだ。昨夜も、対戦した楽天イーグルスを大きく上回る12安打を放ち、何度もチャンスを作ったのに、あと1本が出ずに6対5で競り負けた。最近の敗戦は、延々とパターンの繰り返しだ。ナマズを捕るのに瓢箪を構える風情。たまには投網でごそっと、どう?
 

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