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ハマかぶれ日記211〜夏至雑観

 きょうは夏至。東京地方の日の出は午前4時26分、日の入は午後7時で、満月でもある。あいにくの雨でお日様、お月様の姿を拝めないのは淋しいが、昼間がいちばん長いと考えるだけで何だか得をした気分になる。いつまでも外が明るいのをいいことに、実家の裏を流れる大川で童仲間と遊び呆けて親に叱られた60年以上も前の気分を、いまに引きずっているのだろう。
 昨夜は、ボートレースでしこたま儲けたという若い友人のN君に誘われ、神楽坂の某人気蕎麦店へ行った。少し早めの時間帯だったので、すんなりカウンター席に座れたが、あっという間に満員になり、空席待ちの客が列をなす。「いつもお世話になっているので、たまにはご馳走させてください」。心優しいN君の言葉を嬉しく感じつつも、料理のメニューを目にして少し腰がひけた。おおむね一品1000円以上で、最も安い部類のミョウガの和物やコンニャクの田楽でも、7、800円する。
 「あすは夏至ですね」。写真が趣味で季節の移ろいに敏感なN君の時候の指摘に、「ああ、そう言えば」と触発されて「タコ(明石)」と書かれた一品の値段をチェックすると、1680円とある。グッと言葉を飲み込んで「季節的にはミョウガがいいよね」ととりあえずの矛先を手頃な値段感のものに転じた。それでもありがたいことに、N君は一人前4400円もするエビやアナゴの天麩羅盛り合わせなどを頼んでくれて、美味しく日本酒を飲んだ。仕上げの黒打ちの蕎麦も風味があってなかなかのものだった。明るく清潔な店内の雰囲気といい、人気店である理由はうなづけた。
 一瞬、タコに執着したのは、10年ほど前、現役の会社員として1年間、大阪に単身赴任した時に、関西地方では、夏至にタコを食する慣わしが残っていると知ったからだ。夏至を越えていよいよ成熟に向かう作物がよく根を張って育つようにとの願いをタコの広がる足に込めたらしい。
 江戸前でもこの時期、「梅雨シャコ「梅雨アナゴ」と並んで、タコは夏の食材と大事にされる。それを、しかも本場の明石からの到来ものを口にできなかったのはちょっぴり残念ではあったものの、それでなくともN君の懐には重い負担をかけているのであり、口が裂けても言えることではなかった。
 実は、数ヶ月前、N君をボートレースと結び付けたのは筆者だ。ギャンブルなど全く手を染めたことがないと言うので、「後学のため」などといい加減な口実を設けて、多摩川競艇場に連れていった。それから時々、遊びに行くようになり、2、3日前に大穴を当てて儲けたという。その上がりでご馳走になりながら、「のめり込まないようにね。決めた予算の範囲内で遊ぶこと。変な風になったら、君のお父さんに顔向けできないから」と、釘を刺しておいた。真面目によく働くしっかり者だから、間違いはないと思っているが・・。転ばぬ先の杖、自分のためでもある。
 さてプロ野球は、毎年恒例のセパ交流戦も終え、今夜から通常の両リーグのペナントレースに戻る。我が横浜ベイスターズの最初の相手は阪神タイガース。甲子園のお天気はどうだろうか。何はさておき、勝ちが一番。負ければ、正岡子規の有名な俳句のようになってしまう。
 夏至過ぎて 吾に寝ぬ夜の 長くなる
 

 

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