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ハマかぶれ日記225〜遅野井の八重

 いつも散歩する水辺の光景で、とても嬉しい出来事が2つ続いた。
 一つは、きのうの朝、小雨に煙る善福寺川でカルガモの親子を発見したことだ。母鳥が3羽の雛を抱えて、忙しそうに水草の間を泳いでいた。草葉の影に見え隠れするタイガーカラーのおチビさんの姿が愛くるしい。先日、この日記に書いたように、今年はカモやサギなど水鳥の数が例年になく少ないと感じていた。とりわけ、毎年6、7月の繁殖期には必ず何組も目にするカルガモ親子の育児風景になかなか巡り会えず、これまでに確認できたのはたった1組、しかも雛は1羽という寂しさだっただけに、「どうしたんだ」とヤキモキしていた。
 多い場合は、母鳥が10羽以上もの雛を引き連れていたりする。概ね5、6羽が標準と見えるので、3羽は少ない。もともと生まれた数が少なかったのか、それとも蛇やカラスといった天敵にやられたのか。少々、物足りなさは残しつつ、出会えたことが無性に嬉しかった。
 もう一つは、川の上流にある善福寺公園の上の池の地下水汲み上げポンプが作動し始めたことだ。今朝、気づいた。ポンプは南岸に2か所あり、送水管の不具合の修理を理由に2か月ほど前、電源が切られ、動きが止まっていた。植物性のプランクトンが大量発生して「青潮」状態となる夏場は特に、水中の酸欠を緩和する意味でも地下水の供給は大きな意味を持つ。流れ込み口には必ず、鯉たちがたむろして気持ちよさそうに浮かんでいた。その姿が消えた。「早く不具合を直して水を送ってくれないか」と、毎朝、通りかかるたびに気を揉んでいた。
 中でも池の最奥部近くに、岩を伝って流れ落ちる「遅野井の滝」として整備されたポンプは、歴史的な故事にゆかりのあるちょっとした観光スポット。それがゆえに大きく掲げられた公園管理事務所の作動停止の断り書きを見ては、「池を殺す気か」なんぞと心なくも恫喝口調で呟くようになっていたから、ジョボジョボと小さな滝壺に落ちる水音を聞きつけた時には、思わずワーと歓声を上げて駆け寄った。
 「遅野井」の地名は、1189年、弟の義経ら藤原一族の謀反を征伐するため奥州に向かった、のちの鎌倉将軍・源頼朝(1147〜1199年)の故事によるという。戦勝祈願で池のすぐそばの井草八幡宮に立ち寄った頼朝は、無事、征伐を成し遂げたお礼参りで帰路も八幡宮に足を運んだ。折しも日照りで水場が干し上がっていたため、軍勢の飲み水を得るため付近あちこちで井戸を掘った。だが、なかなか水脈に当たらず、ようやく当地で掘り当てた。水が出るのが遅い、遅い、遅いのお。で、遅野井というわけだ。
 今回のポンプ復活も、まさに「遅野井」の名にし負う面目躍如といったところなのだろう。鳥たちもそれを寿いでいるのだろう。もう一つのポンプの流れ込み口では、護岸の杭の間に渡したロープに1羽のカワセミがとまって水面を凝視していた。
 毎日欠かさず望遠カメラを持って歩いているバードウォッチャーの男性によると、そのカワセミはきちんと識別できる8番目の個体なので、「八重ちゃん」と名付けているという。遅野井の八重・・なんだか風情のある佇まい。江戸の天才画家、伊藤若冲(1716〜1800年)あたりに絵筆をとらせて描いてもらたいぐらいだ。
 こんなに心弾むことがあった日は、そのままの勢いが続くよう祈るのみだ。昨夜のわがベイスターズのナイターは雨で中止になった。今夜はどうやらお天気はもちそうで、同じ対戦相手の広島カープと横浜スタジアムで対戦する。初回からどんどん点を重ねて、できれば楽勝で。遅野井にならないように。
 

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