見出し画像

ハマかぶれ日記212〜絵巻物の世界

 昨夜は、日ごろお世話になっている会社の役員にいただいたチケットで、歌舞伎座の六月大歌舞伎を観賞した。演目は、「南総里見八犬伝 円塚山の場」「山姥」「魚屋宗五郎」。演者は、中村時蔵改め萬壽や中村獅童、中村芝翫、中村歌六、中村七之助、中村歌昇ら中村一門の芸達者が勢揃いで、たっぷり楽しめた。加えて、萬壽の息子の梅枝が時蔵を、8歳の孫の大晴君が梅枝を継いで初舞台という玉突き襲名披露のめでたさも手伝って、劇場内が華やいでいる。絵巻物の世界にさまよいこんだ風だった。
 「山姥」に出た梅枝は、怪童丸、のちの坂田金時役を務めたが、さすがに名門の跡取りだけあって堂々たるデビューぶり。用意された席が前から3列目の花道に近い最高のところで、一所懸命な台詞回しやミエ切りを目の前で見ることができた。顔や手足の緊張感が直に伝わり、「プレッシャーに潰されずによくぞ頑張っているなあ」と頬ずりしたいぐらいだった。
 この興行での初舞台は、あと2人いた。そちらは梅枝よりさらに年下で、その初々しさ、可愛らしさが観衆の心を鷲づかみしていた。中村獅童の6歳の長男、陽喜(はるき)と3歳の次男、夏幹(なつき)。「山姥」でも「魚屋宗五郎」でも、夏幹はお兄ちゃんにピッタリとくっついて歩き、お兄ちゃんの台詞につづけてセリフを言う。時にボケッとしてお兄ちゃんに次の仕草を促されたりすると、観客席には笑いがこぼれた。
 中でも、宗五郎の店を訪ねる酒屋の丁稚役で花道を並んでトコトコ歩いて出てきた姿は、横で見ていると転げ落ちはしないかとハラハラしたことも手伝って、強くまぶたに焼きついた。おそらくずっと覚えていて、いつか彼らが成長し、一人前の役者になった時、周囲に自慢げに思い出話をすることだろう。ボケていなければだが・・。
 目を喜ばせてくれたのは、むろん子役の活躍だけではない。宗五郎を演じた中村獅童の汗みどろのメリハリの効いた所作や、山姥で見せた中村萬寿の円熟した舞踊のたおやかさなど、見どころは多かった。 
 満足のうちに4時間にわたる観劇の幕が下るや、同行の友人のS君と木挽町の飲食店街に繰り出し、腹ペコの胃袋にガンガン、ビールを流し込んだのは言うまでもない。当然、そのつけは回り、きょうは眠く、だるかった。
 わが横浜ベイスターズは、例の「見なければ勝つ」の法則に従い、観劇中に阪神タイガースに5対2で勝っていた。きょうはあえてテレビチャンネルを中継に合わせず、競馬にでも没頭しようかと思っていたら、降雨で午後2時の試合開始が延期され、しばらくして結局、試合中止となった。阪神の先発予定は今シーズン8勝1敗と絶好調の才木だった。強敵にぶつかるのを回避できて、なんだか得した気分ではある。競馬もG1レースの宝塚記念の馬券を的中させたし、終日雨の重っ苦しい天気を除けば、いい日曜日になった。
 考えてみれば、会社生活の現役を引退した身には、城山三郎さん(1927〜2007年)の小説ではないが、「毎日が日曜日」のようなもの。それでも、あすは月曜日だと思うと、ムズムズとサザエさん症候群がうごめき出す。長年の習いとは、不思議なものだ。
 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?