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ハマかぶれ日記205〜時の過ぎゆくままに

 顔が40度近くも高熱を発した時のように赤くなっている。風呂に入ったら、顔と両腕がヒリヒリ痛む。体を洗うのもボディーソープを指でゆっくり広げてなぞり、ぬるいシャワーをそろりそろりと。きのう、横浜スタジアムの横浜ベイスターズ対ソフトバンクホークスのデーゲームを観戦したら、1類側の内野席とあって西に傾き始めた真夏を思わせる太陽の光を正面から受け止める形になり、海水浴に行った後みたいな赤焼け状態となった。
 燃える体とは裏腹に気持ちはすっかり冷え切った試合だった。先発予定を一日ずらし、必勝を期して登板したベイスターズのエース・東がピリッとしない。打線も全くいいところなく、いつものように、たまさか好機を作っても凡打の連続で3対ゼロで8回裏を迎えた。敗勢濃厚。ここで何と、このところ当たりの出ている主軸のオースティンが同点3ランを放って一気に同点とした。ところがそれも束の間、9回表、マウンドに立ったクローザーの森原が痛打されて2点を失い、そのまま押しきられた。
 気持ちも燃え上がったのは、オースティンが本塁打を放った瞬間からほんの数分の間だけだった。ものすごいスタンドの大歓声の中で、筆者も立ち上がって拳を突き上げ興奮の坩堝に身を委ねていた。
 同行した高校時代からの友人のK君は特定のチームのファンではなく、純粋な野球ファン。「試合が面白ければいい」というエピキュリアンで、「いやあ、最後に盛り上がってよかった」と喜んでいたが、ハマかぶれとしては、四苦八苦、空気を送り込んでようやく盛んになったキャンプファイアーをいきなり夕立が襲うが如き結末で、なんともかんともやりきれなかった。しかも、これで4連敗とあっては。
 そんな気分を救ってくれたのは、試合後の「一杯」だった。K君同様、高校同級生のS君が合流して入った近くの中華街の「萬珍楼」別館。神奈川在住のS君おすすめの小籠包が有名な店で、紹興酒のロックをくいくいやりながら交わす半世紀以上も前の昔話や近況報告の会話は、得がたく楽しい時間となった。もちろん、食べ物も美味しい。「マーライコウ」というふわふわとした中華菓子の、酒にも合うほのかな甘さがとりわけ印象に残った。
 高名な江戸時代の僧・良寛(1757〜1831年)の、筆者が好きな漢詩に「半夜」がある。その一節。「回首五十有余年 人間是非夢中」。振り返れば、もう50年余りも経ってしまった。良いことも悪いことも今は夢の中・・と。つかのま共有し、折に触れて交錯させて過ごしてきた時の流れを親しい友とともに遡れるのは嬉しい。それは、残されたこれからの集いの時間の貴重さを互いに確認し合う所作でもあるようだ。
 K君、S君とも10日ほど前、古希を迎えたという。店を出て見たK君の足元はふらついていた。自分の足元のことはわからない。確かなのは、あと何ヶ月かで、こちらも古稀に達するというだけだ。

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