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ハマかぶれ日記226〜ルーズヴェルトゲーム

 東京地方に気象庁による梅雨明けが宣言されたと思ったら、ミンミンゼミが喧しく鳴き始めた。1週間ほど前まではセミの声がほとんど聞こえず、聞こえてもニイニイゼミのか細い声で、早い時期からの酷暑にセミの世界にも異変が起きているのかと心配していた。それが、アブラゼミがジージー合唱し始めたと思ったら、ミンミンゼミの大音響。梅雨明けだから鳴いたのではなく、気象庁はその声を待って梅雨明けを発表したのではないかと勘繰るようなタイミングの良さだった。
 岩に染み入るとは、よく詠んだものだ。芭蕉先生も喘いだ燃える真夏はセミとともに鳴物入りでやって来て、プロ野球はいよいよ来週のオールスター戦ブレイクに向け、前半戦最後の公式戦3連戦が始まった。
 わが横浜ベイスターズは、神宮球場で行われた昨夜の対ヤクルトスワローズとの初戦を8対7の接戦で制した。2回表にオースティンのツーランホームランなどで4点を先制した時は、「これは楽勝、格好の暑気払い」とジュース片手に寝転がってテレビ中継を見ていたら、先発のジャクソンが熱中症だか何だかわからないけれど、急にマウンド上にしゃがみ込んで降板したりして4回裏、同点に追いつかれる。はては5回裏、主砲・村上の一発で5対4と逆転された。
 神宮球場のスタンドは、名物のカラフルなプチ雨傘を振りかざすヤクルト応援団の歓喜の絶叫で大盛り上がり。完全に流れはヤクルトに傾いたので「こりゃ、あかん」と観念するや、すぐ6回表にオースティンのこの日2本目のツーランホームランで再逆転、その後は取ったり取られたりで、土壇場の9回裏も1点差に詰め寄られ1打サヨナラのピンチを招きながら、なんとか振り切った。マラソン競技でよく見る、ゴールした瞬間にバタンと倒れ込むヨレヨレの勝利だった。
 もつれた展開のおかげで、試合時間は4時間近くにも。終わった瞬間は、クーラーをかけているのに、手のひらどころか体にも冷や汗をかいていた。「そうか、冷や汗で暑気払いか」などと冗談をかませたのも、なんとか勝ったからで、負けていれば、またも不眠の原因を選手に押し付けるところだった。
 野球で8対7のスコアで終わった試合をルーズヴェルトゲームと言うことは、よく知られている。世界恐慌に打ち克った「ニューディール政策」で知られるアメリカの第32代大統領、フランクリン・ルーズヴェルト(1882〜1945年)が野球団体から招待されたディナーに出席できなくなった詫び状に「野球で一番、面白いゲームスコアは8対7」と書いたエピソードが広く伝わり、呼称が定着した。
 人気作家の池井戸潤さんが、社会人野球の名門、鷺宮製作所をモデルに書いた小説の題名はずばり、「ルーズヴェルト・ゲーム」だった。会社経営の浮き沈みの中で右往左往する野球部の姿を、乱打戦の結果になることが多い8対7の込み入ったスコアにクロスさせている。
 2012年に単行本が発行されると、すぐに買って一気に読んだ。さすがのストーリーテラーと感心した。両軍合わせて33安打という、打撃が低調な今シーズンには珍しいノーガードのパンチ合戦に、そのことを思い出していた。
 きょうも最高気温は35度超の猛々しい暑さになることが予想されている。昨夜のジャクソンの二の舞にならぬよう選手の皆さんにはくれぐれもご自愛をと、たまには暑中見舞いらしく、しおらしく筆を置く・・なんてことは性に合わない。
 頼んまっせ! 今夜はすっきりとした勝ちをね。冷や汗は嫌いだから。

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