量子将棋の序盤戦術

量子将棋の序盤を研究します。
詳しいルールはこちら。

この記事では先手の手は▲で、後手の手は△で表記します。

量子将棋では、序盤にいきなり攻めかかる方針と▲57→53のような手と、序盤は守りに徹する▲59→58のような手があります。

(最終加筆:2024/05/29)



基本的な考え方

量子将棋では、自分の駒の可能性が少なくなるのが命取りです。
そのため、攻めるときは相手の駒の可能性を減らすように、守るときは自分の駒の可能性を減らさないように指す必要があります。

初手▲57→53成

初手▲57→53成(基本図)とします。

基本図

この手に対して後手は①△43→53、②△41→53、③△51→53の三通りの対応が考えられます。

①△43→53

△43→53に対しては先手から▲57→41の返しがあります。
後手は31か51の駒で41の駒を取らないといけないのですが、これは横に動く手なので金が玉であることが確定し、後手は金or玉の駒が2枚も出来てしまいます。

図1

可能性の少ない駒が残ると寄せられやすくなるので、これは先手良し。
この「相手の駒を横に移動させる→下段の駒を取ることで金or玉を確定させる」という流れは量子将棋の最も大切な手筋です。

※追記 この変化について素晴らしい先行研究がありました。

図1の局面から▲16打!が絶妙手です。


②△61→53 その1

②△61→53に対しては▲67→63成△51→63▲27→35△21→32▲35→43△32→43(図2)で先手十分となります。

図2

▲67→63成△51→63によって、後手は桂馬が2枚確定します。
これによって次の▲27→35を桂馬で取り返す手が無くなります。
このとき、先手の89、28、35の駒の効きが後手陣の23に集中するので、後手は23地点を受けなければいけません(受けないと駒を金の動きでとることになり、金or玉を確定させられてしまいます)。

同時に43に桂馬が効いているのも受けないといけないので、△21→32が唯一の受けになります。
ここで△31→32としてしまうと▲35→43成△32→43としたとき、43の駒が角である可能性が消えているので、少しだけ損になっています。

本筋は△21→32に対して▲35→43△32→43です。
これ以上攻めは続かない(?)ので、ここで先手は▲59→58などから一旦自陣の整備に戻ります。
ここまでの応酬で先手は香車or飛車の駒を2枚渡して、駒交換をして相手の桂馬を確定させました。
この交換は先手十分(?)だと思います。

なお、基本図から△61→53に代わって△41→53なら、盤面の左右を逆にして▲47→43成以下同様です。

②△61→53 その2

②△61→53に対する対応は上の変化で十分ですが、もう一つ研究価値がありそうな筋があるので紹介します。
それが、△61→53に対して▲38打とする変化です。
後手が何もしないと▲38→78などの手で後手の飛車損が確定します。
これを避けるために後手は△22→72などで自陣の飛車を確定させます。
これに対して▲38→48で後手の金損が確定します。

この変化は後手の△22→72が甘いのかもしれません。

③△51→53

△51→53に対しては▲59→58くらいしかありません。
この手が一番穏やかな進行になり、後手の最善手だと思います。

図3

▲59→58を手抜くと△53→58の手があり、横にとらされて金or玉になってしまいます。
▲59→58に対して後手からさらにつっかけるなら△53→58ですが、▲69→58で一段落です。
ここからさらに攻める手はないので、お互いに駒組になると思います。


序盤に攻めかかる手としては初手▲67→63成や▲47→43成もありえます。
一路ずれるのがどのくらい影響するのかはまだ未知数です。
ネット上にある棋譜を見ると一路ずらして攻めるパターンの方が多そうです。


初手▲59→58

上では初手▲57→53成としましたが、ここで▲59→58もあります。
(個人的には、"真綿で首を締める"ように守りに徹する指し方の方が勝ちやすいと思っています。)

この手は後手からの△53→57の攻めをあらかじめ受けたもので、後手から簡単な攻めはありません。

両者が自身の駒を特定しないように指す場合、自分の駒を一つ前に動かす着手が最善になります。
また、3段目の駒は一つ前に動かすと角・桂馬の可能性が無くなって守りづらくなります。
両者がこの方針に従うと、以下のような局面になります。

中盤・終盤の指し方

「量子将棋の序盤戦術」という記事ですが、中終盤にも簡単に触れておきます。
あくまで筆者の経験則です。

中盤・終盤の方針

量子将棋では、中盤と終盤の感覚が全く違います。
重要なのは、「歩or金or玉」のような玉以外の可能性が下がった駒です。
このような駒を「玉候補」と呼ぶことにします。

中盤は相手の玉候補を増やしつつ、相手の玉候補をとらないこと。
そして、終盤でまとめて玉候補をとるのがコツになります。
これによって、相手の可能性を最小限にして有利な終盤に誘導できます。

普通の将棋で「速度計算」というと、自玉に詰みが生じるまで何手かかるかを考えますが、量子将棋ではこれはほぼ「玉の可能性のある駒が何枚あるか」と同じになります。

以下、具体的な手筋などを紹介します。

①相手の駒を横に動かす

相手の駒を横に動かすとその駒は玉の可能性が上がります。
そのため、中盤戦はいかに相手の駒を横に動かすかという戦いになります。

相手の駒を横に動かす上でよく使うのは桂馬と角です。
桂馬は、相手陣の表面に両取りをかけて横に動くことを強制します。
桂馬の攻めはどんな局面でも使えるので、成功しやすいです。
(つまり、桂馬は量子将棋の序中盤でとても価値が高い駒です。)

どんな盤面でも桂馬の攻めは成立しやすい。

角は相手陣の駒の塊を崩すときに使います。
角をとると駒が横に動いてしまうので、角をとれない局面が多いです。
普通の将棋と違って、角を持ち駒にされても角を打ち込む隙はありませんから、ここぞという局面でバサッと切ってしまいましょう。

馬がなりこんだ局面。この馬をとると駒が確定してしまうので取れない。

逆に、飛車や香車の攻めを受ける際には自分の駒が横に動かないことを最優先しましょう。

31の飛車を使った攻めを香車で受けた。これを指さないと、△37飛車成▲同量子で駒の可能性が減る。

②相手からとった駒の可能性を減らす

普通の将棋では歩・香車・桂馬は一段目に打つことができません。
そのため、相手からとった駒を一段目に打つと歩・香車・桂馬の可能性が消えて、相手の駒が確定することがあります。

後手のほぼすべての駒が歩or銀or玉になっている局面だが…
後手から取った歩or銀を一段目に打つことで、すべての駒が確定してしまった。

また、相手から取った駒を飛車として使うと相手の飛車損が確定します。

③左右に玉候補を残す

左右に駒の塊が残ると、終盤で玉の可能性のある駒を全て取られる可能性が減ります。
穴熊が2個あるような状況ですから、相当負けにくいです。

後手陣はダブル穴熊。

ダブル穴熊にならなくても、左右に駒があると寄せられにくくなります。
下の図では、先手は左右に玉候補が散らばっていて寄りづらいですが、後手は玉候補が右に偏っているので簡単に寄ってしまっています。
後手陣は歩or玉の駒が三枚あるだけなので、飛車をとると玉が確定して詰みが生じます。

後手は飛車一枚で寄っている。

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