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1995年のとある日の風景。

ラジオ体操第一。
開け放たれた窓から響く将棋駒の音。
尽きることのない茶飲み話が遠くから聞こえる。
人工的な湯の花の香りと
ボイラーで沸かされた湯の匂い。

―鳥屋野老人憩いの家―

歩いて30秒の位置に「岩助屋商店」という雑貨屋がある。
「雑貨屋」なんていえば聞こえはいいが、
凍ってるのにベタベタになったバニラアイスや
賞味期限切れのお茶うけが平気な顔をして並んでいる。

『竜也。タバコ買ってきてくれんかね。マイルドセブンの6mmのハコ。あ、これもっていけば良いわ。おつりでお菓子でも買ってきなせ。』

って言われても食べたいの無いんだなぁあそこ。
10円のフーセンガムでさえ湿気てるんだから。


6軒、2世帯続きの長屋のガラス戸を開ける。
裏の長屋に住む大工の田中のおじちゃんが
作ってくれたトタンのひさしが軋む。

てか、借家に勝手にDIYしていいのかよ。
      (今思えば)

歩いて3秒の場所からは、例の岩助屋商店のおばちゃんの畑が見える。
ここを横切ると商店まで近いんだけれど、おばちゃんが烈火のごとく怒りだすからやめとく。
岩助のおばちゃんは土地持ちだから、商店と長屋の前は全ておばちゃんの土地。

トマトが旨かった。(夏によくもいでた)

「すみませーん」

おばちゃんが小上がりの畳で坐して寝ている。
ブラウン管テレビには、みのもんたが昼下がりの主婦の涙ながらの訴えに
眉間にシワを寄せながら聞き入っている。

「すみませ〜ん!タバコくださーい!」

『、、、あぁいらっしゃい。、、、、あんたが吸うんじゃないんだよね?』

「はい。おつかいです。」

これはいつもの流れだ。
今でいうとコンビニの年齢確認ボタンみたいなやり取りだ。

『ありがとねぇ。入り口閉めなくていいからね。』

ふくふくの三毛猫がこの店にたまに入り込んでくる。
定位置はおばちゃんの割烹着の膝だ。


お菓子は買わず店をでて、おつりから300円もらう。
健全な子どもなら、岩助よりセブンイレブンに行く。

2本で1000円….20年前のお値段です..…
2本で100...……。

た〜けやぁ〜さおだけぇ〜。

サビが目立つ軽トラに、年季が入りすぎたJAの帽子を被ったおっちゃんが乗っている。

あれ、あの人古紙回収もやってたような、、、、。


長屋の前に近付くと、母の姿が見えた。

バッチリメイクに、三越で買ったというよくわからないアニマル柄の上下を着ている。


『たつ。タバコありがとね。母さんちょっと行ってくるから。ご飯炊いてるからね。』

(ちょっと)の時にハンドルを回す仕草。

またパチンコかよ。ババア。



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