【全文無料】「親がね、正しさとか言い出したら息苦しくなるんよ。家の中だけは、汚れている部分も出せないと」

実家を離れる日、お母さんがいつも渡してくれるお弁当のほかに新聞の切り抜きが混ざることがあった。

私が一人暮らしをしていたのは大学の4年間と30歳で京都本社に異動になってからの1年間。その間、実家に帰省したのは……年に2回で計算したら10回くらいなんだろうか、いやもっとあるような気もするけど。

「親の意見を子どもに押し付けない」を500%徹底した両親だったから、勉強しろ、常識をわきまえろ、お姉ちゃんだろといわれたことはない。その代わり、悩んでいることは眠くても体がきつくても寄り添って話を聞いてくれた。

離れて暮らしているからといって、電話であれやこれや心配事をいうこともなければ、別れ際にこれだけは言っておこうなどと有難迷惑な説教も一切ない。

唯一、何かを伝えたいとき、それは新聞記事の切り抜きだった。仕事で上司に腹が立ってしょうがなかった時期は、風俗嬢だった女性の話で愚痴を言っても仕方がないみたいな悟りのような話だった。それともうひとつ、正確な言葉は忘れてしまったけれど、「水は綺麗すぎても飲めない」みたいなことわざだった。母はえらくそれに共感していて、私には怒ったことのない仏のような親なのに、なぜそこを真剣に勧めてくるのかわからかった。

京都に引っ越してから1年後、結婚することになり、子どもはもうすぐ3歳になる。結婚するころからかな、その切り抜きのことをふと思い出すことが増えた。母は言った。「親がね、正しさとか言い出したら息苦しくなるんよ。家の中だけは、汚れている部分も出せないと」

母が他人の悪口を言うのが嫌いだった。本人に言うか、会わなければいいのにと理想を軽く伝えたら「家の中くらい、言わせてよ」と反論されたことも忘れられない。友達と言える人が1~2人しかないのも他人を認めないプライドがあるからだろうと、そこに関してはずっと母に批判的な気持ちを持っていた。

だけれど、どういう意味だったのか。

わかるような気がするけれど、親だから、まだ認めたくない。これに関しては、まだ結論が出ず、下書きを半年くらいため込んでいたんだけど、下書きにするのが嫌だから、とりあえず公開する。


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