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Netflixを解約するまで後27日〈トークサバイバー4話〜最終話〉

とうとうNetflixに堕ちてしまった哀れな人間による恥の多い備忘録である。せめて心までは堕ちぬよう抵抗していくために筆を取る。
Netflix、お前は「キャンセルや解約は簡単にできますのでお気軽にどうぞ!まっどうせそんなことできないでしょうけどね!こぉ〜んなに面白いコンテンツだらけの我がNetflixですから!」とのたまっているが、絶対に思い通りにはさせない。

『トークサバイバー』第4話〜最終話

もう少し分割しようと思っていたが、バラエティは一気見してもあまり体力を使わないのでどうせならと全話視聴をかましてしまった。

全体を通じてまず何よりも千鳥・大悟が凄すぎる。
ほぼ全てのトークバに居合わせながらヒット以上を必ず打ってくれる安心感。この企画の看板に選ばれただけある。
トークお題は要約すると7割くらい「自分にとって辛い話」だ。長い下積みがある芸人たちとはいえ味付けを変えるだけではこの物量は乗り切れない。それを汗をかきながら全打席に立ってバットを振るのが大悟だ。

大悟の強みとして「火事場の馬鹿力」がある。
以前『千鳥のクセがスゴいネタGP』の企画で10人連続で相手を笑わせられるかのチャレンジに大悟がサプライズでプレイヤーに立たされた時、何の準備もしていない大悟は困り顔でニヤつきながら相手に向かってこう言う。
「今こうやって立ってる大悟って見たことある?」
たっぷり間を取って目を見ながらそう言った後、時間制限が迫った時、
「じゃあ…横の大悟は見たことある?」
と言い、ただ身体ごと横を向いた。それだけで笑いをとったのだ。
もう大悟にはそれだけの笑いの説得力が生まれていることの証左である。ないならないなりに空の手で最大限の火力を撃ち放すその火事場力がこの番組でも如何なく発揮されている。

そして、今回の企画で最も際立ったのはパンサー・向井慧と狩野英孝だ。
この2人はかつて「ワーキャー芸人」「スベリ芸人」と、こういったお笑いストロングスタイルの番組には縁遠いイメージが強かった。
もちろん芸歴20年近く誇る実力者だ。今回のトークの切れ味も申し分ない。ただ他の参加者よりも乗る「魂」がある。

先ほども書いたように、トークのお題のほとんどは「自分にとって辛い話」だ。芸人のほとんどは基本売れなかった話やモテなかった話に帰結していく。
しかし、狩野英孝は「トークが下手なスベリ芸人」として、向井慧は「すぐに人気の出たワーキャー芸人」としての過去を持つ2人はエピソードに乗るギアがギアが違う。
特に向井慧の「『女に媚びを売るワーキャー芸人が』とバカにしてきた先輩がいた、その先輩だって実力がなくてモテないのをいいことに同性に媚を売って芸人をやっていたんだから、クソだろ」という男臭い芸人社会への痛烈なカウンターエピソードであり、彼ならではの過去を乗せた見えないパンチは現場にいた先輩芸人たちも少したじろいだのではないか。

この企画でトークお題ががほぼ「辛かった話」なのは、ほぼみんなそれを乗り越えてきたからだ。
そこを踏ん張って耐えてきたからこその豪速球の投げ合いがこの企画のキモである。
尖った芸人には尖った芸人の、スベリ芸人にはスベリ芸人の、ワーキャー芸人には、非モテ芸人には、遅咲き芸人には、アイドルには、タレントには…
各々様々な芸能生活を過ごす参加者に共通するのは、今ここに立ってそのトークをしていることである。
『トークサバイバー』と銘打ってはいるが、「トークでこの場を生き残ること」がメインではない、その実この企画は、「生き残ったからこそ紡ぐことができる英雄譚」。つまり、『サバイバートーク』なのだ。

この企画のドラマパートは必要以上にしっかり作られていて、役者の演技もセットの作りも洒落臭いほどの伏線回収もやってのける、言わば「無駄遣い」だ。
しかし、ここまで大仰にやってくれるからこそトークのみみっちさやしょうもなさが映える。Netflixの予算を無駄に使うことによって生まれる無駄のなさがここにある。

苦渋を飲まされた過去、スキャンダルに振り回された過去、情けなくしがみついた過去、その全てが今ここに生き残ったことの証として話すトークは、決してその過去は「無駄遣い」ではないのだと、派手に爆破されるセットが語りかけているかのようで、それと同時に今苦しんでいる芸人引いては視聴者そのものへのエールかのように感じた。
「生き残るためのトーク」ではなく「生き残ったからこそのトーク」を。Netflixだからこそできる傑作バラエティ番組でした。


Netflixを解約するまで後27日

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