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Netflixを解約するまで後26日〈イカゲーム1〜2話〉

とうとうNetflixに堕ちてしまった哀れな人間による恥の多い備忘録である。せめて心までは堕ちぬよう抵抗していくために筆を取る。
Netflix、お前は「キャンセルや解約は簡単にできますのでお気軽にどうぞ!まっどうせそんなことできないでしょうけどね!こぉ〜んなに面白いコンテンツだらけの我がNetflixですから!」とのたまっているが、絶対に思い通りにはさせない。

『イカゲーム』第1話〜第2話

一昨年様々なバラエティ番組でパロディされているのを観ていたのである程度の詳細は知っていたものの、せっかくNetflixに入ったからにはその代表作と言えるほどの作品を観ないのもなんだなというわけで視聴開始。

お〜〜〜もしろいっ!!!いや、この感情は「気持ち良い」の方が正しい気がする。「面白い」と「気持ち良い」はかなり近いが違う感情として処理しておかないと後々痛い目を見る気がする。

内容は如何にもなデスゲーム物だ。借金を抱えて苦しんでいる主人公が怪しい男に唆されて債務者たちが隔離された場所でトンチキな人殺しゲームに参加させられる。そこに真新しさは特にない。

てっきり自分はこの『イカゲーム』のヒットは、デスゲーム物が飽和した日本とは違い、海外だとこのシステムのバイオレンスさとスリリングさが真新しく映ったからではと勝手に皮肉な目で見ていたのだが、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。

とりあえこの作品は観やすさが段違いだ。
軽妙なテンポで主人公の生き様と現状を観せた後怪しい男が近づいてゲームを提案しそれにノって隔離され命懸けのダルマさんがころんだに興じるまでの1時間、息つく暇もないほどのペースで、かなり軽妙に進んでいく。
ゲームに参加する債務者と同じように、視聴者はどこか他人事のようにこのゲームを観ることになる。人が誘拐され金によって動かされ玩具のように殺されているのにも関わらず、下手したら笑みを浮かべてしまいそうになるくらいの軽快さで進んでいく物語は、飽和してこねくり回して裏切りに裏切りを重ねてきた日本デスゲーム界隈に疲れてしまった国内視聴者にとって、もう陳腐なセリフとなった「こういうのでいいんだよ」に真正面から取り組んでいるこの『イカゲーム』はことごとく心地がいいのだ。

友人が以前住んでいたこともあって何度かコリアンタウンである新大久保に遊びにいくことがあった。新大久保のグルメを一言で表すなら「ハズレなし」だ。
この「ハズレなし」とは「美味しいものが食べられる」とは少し違い、「額面通りの物が出てきて額面通りの味がする」ことを意味する。
豚肉をキムチと野菜で炒めてサンチュに巻いて食う料理、コチュジャンとハチミツに漬けた鶏肉を焼く料理、韓国のりとごま油で作った味が濃いめの海苔巻き、全て想像通りの味がリーズナブルな値段でお届けされる。「こういうのでいいんだよ」それが新大久保グルメ、引いては韓国グルメの魅力だ。

昨今のエンタメに触れる人々は過剰なほど「ハズレ」に怯えている。数多ある作品の中で「ハズレ」を掴まされた時の無駄な時間を忌み嫌う現代人にとって、必ず一定の評価が得られる物に、そしてスピード感のあるキャッチーさに惹かれていくのは致し方ないことである。
そういった意味で韓流エンタメは現代の主流として世を席巻している理屈が、この『イカゲーム』でなんとなく肌で感じることができた。

人殺しすら軽妙な1話とは違い、2話はそれに参加した債務者たちのより深刻な現状や過去を浮き彫りにしていく。あれだけの過酷なゲームをしていた隔離場よりも空は暗く雨が降り続いている。
血溜まりの死体が転がっている凄惨な場所にも関わらず、燦々と太陽が照らしパステルなカラーと青空の壁に彩られた遊び場が、地獄のような現状を生きる債務者によってまるで天国かのように錯覚させてしまう歪な魅力に満ち溢れているのだった。

そしてそれは視聴者も同じだ。
1話目にあれだけ軽妙なバイオレンスを浴びせられて次はどうなるんだ次はまだかとワクワクしながら進めた2話がどこまでも暗い話で心が痛む。
これが凡百なストーリーならバックボーンが分かるこの2話が1話として説明されるもので、だからこそ退屈に映ってしまったことだろう。
だが、あの1話というエサを与えられたなら耐えられてしまう。警官すら笑ってしまう荒唐無稽な殺戮ショーをワクワクハラハラと待ち望んでしまう我々視聴者も、歪な錯覚に陥らされてしまっているのだ。
「きっと大逆転ストーリーがあるのだろう」「より面白いゲームがくるのだろう」「よりバイオレンスな死に様を観せてくれるのだろう」、韓流エンタメのその「ハズレなし」の信頼感が視聴の心を安心させてくれる。どこまでも米が進む末恐ろしい作品だ。

『イカゲーム』は恐ろしいほど食べやすく、気持ちが良い。この気持ち良さは日本デスゲームの金字塔『バトル・ロワイヤル』に近い物を感じる(実際監督の方は日本のデスゲーム物がとても好きでかなり勉強をされた方らしい)。
まだ2話なのでこれからどうなっていくかはまだ分からないが、「豚バラをごま油とキムチで炒めてご飯に乗っけた料理」がどんな味か、わざわざ説明する必要もないだろう。

それこそそういう吟味の話って2年前にとっくに終わってるだろうし…まぁなんか全然違ってたら銃で撃っちゃってください…後7話ゆっくり楽しみます。


Netflixを解約するまで後26日

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